コラム/海外レポート

2020.10.06

アフターコロナに向けて、今製造業が取るべき針路

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執筆者:

平井 康之

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『ニューノーマル時代のモノづくり戦略』不確実な時代を企業変革力で生き抜くための提言

新型コロナウイルスの世界的大流行は、我が国の製造業にも深刻な影響を与えている。まず1月には中国を中心としたインバウンド需要がほぼゼロになり、それまで「爆買い」の恩恵で大きく売上を伸ばしていた医薬品や化粧品の販売が大幅に減少。2月にはグローバルなサプライチェーンが寸断されたことにより、海外生産拠点からの部品供給が停止。そして3月には世界各国で感染者数が拡大。各国政府は「ステイホーム」の呼びかけのもと、外出自粛やさらに強固な手段としてロックダウンなどを実施し、世界的な需要低迷の引き金となった。このような国内外の状況を背景として、多くの国内製造業では操業の一時停止や大幅な減産を余儀無くされ、現在は多少上向いて来たものの、まだ完全に元の状況に戻ったとは言えない状況が続いている。2年とも3年とも言われるアフターコロナの世界が訪れるまで、この不確実な時代の中、今製造業はどのような針路を取るべきなのだろうか?
そのヒントはビフォーコロナ、つまり今から1年前の製造業の課題にある。

近年の企業経営における危機的状況としては、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの際、国内全体に及んだ経済危機が挙げられるが、今回のコロナショックはその2つが同時に襲ってきたほどの規模とネガティブなインパクトを持っている。このような有事の際、常に言われることが、過去の学びを生かせなかったのか?ということだが、私は今回に関しては、リスクヘッジの観点から備えることは非常に困難な出来事であったと考えている。確かに感染予防ということからは、平時からのリスクマネジメントで対応が可能だったかもしれないが、こと経営という点から考えると、いかなるリスクヘッジも通用しなかったと思う。ただその中でも、動じなかった企業がある。それは利益率の高い企業であり、その意味から今後企業では利益率を重視した経営にシフトすることが、有事に対する唯一の防衛手段となるように思う。

さて、現在国内製造業で問題となっているのが、操業の一時停止や減産といった事態を受けた「人余り」の現象である。余力を放置することでの弊害としては「問題異常の埋没」「過剰な作業の発生」「改善意欲の低下」「ゆるみによるミスやケガの発生」などが挙げられ、長期化するとこれまで積み上げてきたルールや規律が崩壊する可能性がある。
このような「人余り」に対する対策として、現在よく見られるのが、残業、休日出勤の削減、派遣、パートの雇い止めなどによる「余力圧縮」と5S、研修、手順書作成、外注の内製化などによる「余力活用」だが、これらは果たして本当に適切な対策と言えるのだろうか?
1年前を思い出して欲しい。今はピンと来ない方も多いと思うが、人も時間も無く、生産性向上に取り組みたくても、取組むことが出来なかった状況を。
人余りの現象が起こっている現在、「人手不足」という大きな課題が過去のものとして忘れられていないだろうか?国内の人手不足は構造的問題で、今後国内の労働力人口は2020年からの10年で1割減、約700万人の減少となる。これはすでに決められた未来であり、必ず人手不足の時代はやってくる。またその際の貴重な人員も介護事業、医療事業などに多くの労働力人口が流出し、不確実性が高まる時代背景により、中小より大企業へという安定志向が高まる。つまり中小の製造業には非常に厳しい時代となることが予測されるのだ。
この流れに対して、政府は外国人労働者を増加させる対策を進めているが、現在受け入れが予定されているのは5年間で35万人であり、2030年の700万人減少には全く足りない。私は今後のアフターコロナに向けた国内製造業の最大の盲点は「人手不足」にあるように思う。

1年前、生産性向上への取組みを進めようと思っても、時間も余力も無く進めることは困難だった。しかし今は人、時間が余っている。ところが優先順位の低い取組みを進めたり、経営が厳しいことを理由に派遣を雇い止めしたり、せっかく得た余力を有効に使えていないのではないだろうか?
私が提言したいのは、アフターコロナの世界に向けて、人手不足を解消し、生産性向上、中途半端なものではなく、生産性200%向上というような大きな改革に「今」取組んで欲しいということ。確かに口で言うほど簡単なことではないが、現在は人も時間も充分ある。今取組まなければいつ取組むのか?そういうチャンスの芽が今そこにある。
例えば私が支援しているある企業では、今すごい勢いで改革へのスタートを切っている。この会社は200名規模の人員だが、一切雇い止めをせず、時には残業をしながら、改革を進めている。そこで全社から出てきたアイデアは2000件。もうアフターコロナまで1年しかないとのトップの判断により改革が進められており、全社での意識共有を図るため、先日そのキックオフも行われた。
アフターコロナまであと1年しかないと思っている企業と、まだ1、2年はあると考え、この状況を放置している企業とでは、1年後、2年後に大きな差がでる。今が最大のチャンスと捉えて、企業改革への取組みをスタートするべきではないだろうか。

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