新聞やテレビを見ていると、心が揺さぶられる言葉をよく目にします。
「衝撃」「危機的状況」「急増」「深刻化」――。
こうしたエモーショナルな表現は、視聴者の関心を引き、
出来事を強く印象づけます。
良くも悪くも、受け手の感情に働きかける力があります。
しかし、この“伝え方”をそのままモノづくりの現場に
持ち込んでしまうと、話は少し変わってきます。
「すごく多い」では、判断できない
製造現場では、こんな声を耳にすることがあります。
「この機械、故障がすごく多いんです」
「最近、トラブルが増えました」
「品質が悪化しています」
確かに現場の実感としては、切実な問題なのでしょう。
ですが、もしこのような指摘で「新しい機械の購入」を
会社に打診したとすれば、どうなるでしょうか。
きっと、承認する立場の人はこう考えるはずです。
「何年前に購入した機械なのか?」
「例えば、年間で何回程度、故障が発生しているのか?」
「故障による停止時間は何時間か?」
「不良率は何%で、いつからどの程度悪化しているのか?」
「管理や修理費用はいくらかかっているのか?」
つまり、「すごく多い」や「最近増えた」という抽象的な言葉だけでは、
新たな費用を投資する判断ができません。
なぜなら、そこには比較対象も、基準も、客観性もないからです。
経営は「印象」ではなく「事実」で動く
経営判断は、感情ではなくデータで行われます。
例えば、
・2016年購入(使用年数10年)
・2023年:故障3回
・2024年:故障7回
・2025年:故障12回(うち重大停止3回)
・年間停止時間:合計48時間
・不良率:0.8% → 2.3%へ上昇
・修理費:年間180万円
ここまで具体的に示されれば、話はまったく違います。
「老朽化に伴い故障頻度が4倍に増加している」
「停止時間による機会損失は年間○○万円相当」
と整理できれば、設備更新は“感覚的な要望”ではなく、
“合理的な投資判断”になります。
現場の実感を、経営の言葉に翻訳する
現場で働く人の感覚は、とても大切です。
違和感や「何かおかしい」という気づきは、改善の出発点になります。
しかし、その気づきをそのまま感情で伝えても、組織は動きません。
大切なのは、
「実感を、事実に置き換える」こと。
「感覚を、数値に翻訳する」こと。
これは単なる報告スキルの話ではなく、
モノづくりの文化そのものでもあります。
感情を排除するのではなく、根拠を添える
エモーショナルな表現が悪いわけではありません。
問題意識を共有するためには、熱量も必要です。
ただし、その熱量を支える「具体的数値」がなければ、
説得力は生まれません。
モノづくりの現場に求められるのは、
「感じています」ではなく「こういう事実があります」という報告。
新聞やテレビが“印象”を届ける世界だとすれば、
製造現場は“根拠”で動く世界です。
だからこそ、私たちは問われます。
・その主張に、具体的な根拠(数値)はあるか。
・その問題は事実が明確に共有できているか。
感情を出発点にしながらも、最終的にはデータで語る。
それが、組織を動かすコミュニケーションの力なのです。








