コラム/海外レポート

2021.10.25

経営課題解決のための余力創出と人材育成

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  • 人材育成

執筆者:

安田 俊道

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余力創出と人材育成

 コンサルタントとなって約15年。業種としては自動車部品、化学プラント、食品、医薬品など。海外ではタイ、マレーシア、ベトナム、中国などの日系企業にもお伺いしながら40社ほどの製造業で現場改善の支援を続けてきた。
 どこの会社でも課題は山積みだ。収益向上、新製品開発、DX推進、SDG‘s対応、CO2削減等、他社は取り組んでいるので、自社が取り組まなければ、それだけで競争力が無くなっていく。このような課題は分かっていても、それらを解決するための人・時間が無い。時間があったとしても、自らが中心となって動く人材がいない。
 厳しい経営環境の中では、人・時間は自社内に求めるしかない。そのためには、現在の作業や業務の中で、如何に生産性を上げて余力を生む出すかを考えて行かなければならない。
 また、人材に関しても、社内の中から見い出していかざるを得ず、時間をかけて人材育成をする余裕はない。次世代の幹部候補が活動リーダーとなり、先の余力を出す活動、身近な問題・課題解決をする取り組みを行っていく。その結果として、大きな経営課題に取り組んでいける人材に成長していく。

効率化の着眼点

 現状分析による余力創出のロジックを紹介したい。それは日常の仕事を3つに分類して考えることから始まる。ちなみに製造部門と間接部門とも考え方は同じだ。製造の場合は「作業」、間接では「業務」と呼んでいるが、要するに各職場における仕事のことである。
 作業・業務を、価値作業・付帯作業・ムダ作業の3つに分類することで改善に取り組む。たとえば製造部門なら、現在の作業の内容を価値作業・付帯作業・ムダ作業に分類してみる。
 「価値作業」とは、お客様がお金を払ってもよいと思って頂ける作業。具体的には、モノづくり現場では加工・組立が該当するが、プラントなどの設備系では材料投入などが価値作業と考えられる。
 「付帯作業」とは、価値作業ではないが、価値作業をするためには必要な作業で、そのためお客様がお金を払ってもよいと思う作業ではない。たとえば段取りや調整、あるいは品質チェックや記録、モノの運搬などを指す。
 「ムダ作業」とは、たとえば手待ちや空歩行、資料探し、モノ探し、トラブル対応、手直しなどとなる。明らかに時間を浪費している部分である。ただし、手直しが必要にも関わらずに、手直し対応をせずに製品を出荷すれば、品質が悪い製品がお客様に渡ってしまう。現状では、ムダ作業もやらなければならないが、本来は手直ししないで済む製品作り、トラブルを起こさない設備保全対応を行い、ムダ作業をせざるを得ない原因を追求して対策をとり、「なくす」すべき作業である。
 また、モノ探し、資料探しもそれ自体がムダである。2S(整理・整頓)の習慣づけをして探さなくてもよい環境をつくることが必要だ。
 「付帯作業」については、価値作業をするために必要な作業なので全くゼロにはできない。しかし「へらす」ことはできる。たとえば30分かかっていた段取時間を1/3の10分以内で出来るようにする。そのためには、調整していた作業は、きちんと条件を決めておいて一回で決まるようにする。また、部品や製品を運搬する作業に関しては、運搬距離や回数を「へらす」。
 「価値作業」については、作業自体を「なくす」「へらす」ことは出来ないので、やり方を「かえる」。治工具等を用いて、誰でも短時間で同じ品質のものが作れるように作業を「かえる」。もう一つの視点として、価値作業は「スキル」に依存する部分でもあるので、カン・コツ等を洗い出し、それらを作業標準に落とし込みができれば、早く習熟しベテランと同じ時間で作業が出来るようになる。
 これらの考え方は、間接部門でも全く同じである。間接部門の「価値業務」とは、たとえば設計部門であれば、設計構想を練ること。購買であれば優良な発注先の設定、品質管理では問題の再発防止などである。また「付帯業務」は、帳票の記入、チェック、データ入力、納期確認などが該当する。「ムダ業務」については、製造部門と同じように相談や資料探し 欠品・納期遅れ対応などとなる。
 このように、N「なくす」、H「へらす」、K「かえる」のNHK視点で効率化を進めることが必要である。

生産性を1.5倍にする発想

 作業・業務の3分類を測定するための手法にワークサンプリング分析がある。これは、テクノ経営の「一日工場診断」でも実施しているIE手法の一つである
 実際の工場でワークサンプリング分析をすると、それぞれの割合が1/3ずつになる場合が多い。つまり主な改善領域である「ムダ作業」と「付帯作業」が約66%というケースが一般的だ。この「ムダ作業」と「付帯作業」を改善により半減できれば1/3の余力が生まれることになる。これは今までと比べて66%の力でできるようになることである。言い方を変えれば生産性が1.5倍になる。「付帯作業」「ムダ作業」の改善だけでもこれだけの成果が見込める。
 私の経験から言えば、約3~5年をかければどんな会社でも必ず実現できる生産性向上の目標値である(2年で実現した会社もある)。このように現場改善は狙いを定めて実施すれば大きな成果につながる。そして改善活動は社内の意識を変革し、活動を通じてリーダーやメンバーを育成する効果がある。改善活動は人材育成にとって絶好の機会なのである。ぜひテクノ経営の「一日工場診断」を受診され、社内改革に取り組まれることをお勧めする。

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