コラム/海外レポート

2020.11.24

『受継がれるもの』(株式会社ハーベスト 様)

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JR東京駅通路サイン(2020年施工)

帝国データバンクが2020年8月に実施した調査によると、企業の67.0%が事業承継を経営上の問題と認識しており、新型コロナを機に事業承継への関心が高まった企業は8.9%に上る。また事業承継を行う上で苦労したことでは、「後継者の育成」が48.3%で最も高く、苦労しそうなことに関しても「後継者の育成」(55.4%)、「後継者の決定」(44.6%)が上位となり、総じて後継者問題に関する懸念が上位にあげられている。すべての企業が事業承継を望んでいるわけではないが、特に中小企業にとって後継者不足は深刻な問題になっており、その深刻さは経営や事業が黒字であっても、廃業を選択する企業が多く存在するほどだ。
「自分は当社とは関係無く、自由に自分の人生を生きて行くつもりでした」そう語るのはサイン・看板・モニュメントの制作を中心に事業展開を行う株式会社ハーベストの代表取締役 岩田 学氏。「大学4年生の就職活動シーズンが始まり将来の進路を考える中、それまでは父からハーベストで働く必要は無い、自分の人生を好きなように生きれば良いと言われていたので、自分としては就職先も自分で決めて、当社とは関係無く働くつもりでいました。父とは仕事の話はほとんどしませんでしたし、それが父の本意だとずっと思っていました。そんなある日、姉が卒業後の針路はどうするつもりだと尋ねてきたので、自分は自分で生きて行くよと答えました。そこには父への反発心とかそういうものは全く無く、自分の素直な思いを口にしただけでしたが、その答えに対する姉の言葉は意外なものでした。“あなたはお父さんの本心がわかっているのか?本当は会社を継いで欲しいと思っているけど、あなたに重荷を背負わせたくないだけなのだ”と」それまで父の言葉を素直に受け取り、自分の人生は自分で決めて生きて行くと考えていた岩田氏の考えは、姉から聞いた父親の本当の気持ちに触れて大きく変わったという。「父が独立して創業したこの会社を、両親が本当に苦労しながら経営してきたことは、子供の頃から見ていてわかっていたので、自分から父に頭を下げて、この会社で一緒に働きたいという思いを告げました」
そのまま会社に入っても、井の中の蛙になってしまうという父親の意向で、岩田氏は大学卒業後の5年間、外部の企業で様々な経験を積み、2009年に同社に入社し、現在は代表取締役として経営を推進されている。「平成元年に父が創業した際は、母と元々勤務していた会社の仲間数人というわずかな人数でスタートしました。父は営業下手ですが、職人気質で、ものづくりに情熱を傾ける人であるため、こつこつと堅実に経営を進め、その中でお取引先からの信頼と評価を積み重ねて行き、当初は手がけていなかったような事業にも領域を拡大していきました。先代である父のものづくりに対する考え方は、自分達がつくるものを選ぶのではなく、お客様の要望されることをいかに実現していくのかというもので、その考え方は自分も引き継いでやっています」
岩田氏は今後同社の更なる成長に向けて、現在は40名の社員を中長期的には60名程度の規模まで拡大し、より専門的に分業を進めて行ける組織への変革を目指し、改善活動など様々な取組みを推進されている。先代のものづくりに対する考え方を大切にしながら、新たな時代に相応しい企業の形を模索され、着実な歩みを進められている同氏の姿は創業者である父の目にもきっと頼もしく映っているのにちがいない。
事業承継と似た言葉に「事業継承」と呼ばれるものがある。いずれも同じような意味合いに見えるが、厳密にいえば承継・継承には以下のような違いがある。
・承継:先代の人物からのものを受け継ぐこと
・継承:先代の人物から身分・仕事・財産などを受け継ぐこと
つまり事業承継は身分・仕事・財産に加えて会社の文化や先代の精神など、目に見えないものまで引き継ぐことを意味する。2018年に行われた帝国データバンクの調査によると、日本企業の後継者不在率は66.4%とされていて、全企業のうち3分の2は後継者がいない状態だ。コロナ禍の現在、先行きが不透明な状況下で、中小企業における事業承継の重要性はますます高まっており、その対策に向けた取組みは喫緊のテーマである。

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