国内コンサルティング事例

塩野香料株式会社様

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全員参加で取り組む生産性向上と在庫削減

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 本ページでは、塩野香料株式会社様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
塩野香料株式会社は創業205年におよぶ永い伝統を持つ老舗企業。香料業界の先駆者として常に時代の変化に応じた経営改革の采配を振るってきた。
食品や化粧品・芳香剤などの商品に新しい魅力を与える香料。年間数千種類という新たな香りの創造、調香師の育成には10年という歳月がかかる。
朝の目覚めから一日の終わりまで、意識せず気づかないところで接している香り。香料はさまざまな暮らしのシーンで重要な役割を担っている。
伝統と先端技術の融合、柔軟な社風と自由な発想を生み出せる職場環境。7代目社長のもと、取り組まれる生産性と在庫削減に向けた全社活動を取材した。
(※ASAP 2013年 No.4より抜粋)

塩野香料株式会社 大阪工場様

中央:代表取締役社長 塩野 秀作 氏
右:取締役工場長 岡 利博 氏
左:生産本部長 生産管理部長  田村 克博 氏

香料業界の魁として

本日はよろしくお願いいたします。まず御社の事業内容と製品についてお伺いいたします。

塩野: 当社は文化5年(1808年)和漢薬を扱う大阪道修町の薬種問屋、塩野屋吉兵衛商店としてスタートしました。その後、幕末から明治に入り、和漢薬から西洋薬に需要が移行するに従い、新しい分野である香料事業に転換しました。初めはヨーロッパから香料 を輸入していましたが、1921年に香料の国産化に初めて成功。その後、研究開発を続け、香料製品を幅広く製造・販売する総合メーカーとして発展してきま した。現在では、140~150社ある業界内で大手6社の一角を占めています。
業界の市場規模は年間2000億円程度、香料は食品や化粧品など身近な製品に幅広く使用されています。当社では、食品香料、香粧品香料(化粧品やトイレタ リー関係)をオーダーメードで製造。市販されている食品や香粧品のイメージに付加価値を与える使命を担っています。
普段はあまり意識されない香料ですが、実はこれが非常に重要な役割を持っています。例えば、加工食品には香料が必要不可欠です。その理由は製造プロセスに おける加熱の工程が材料の本来持っている風味(フレーバー)を飛ばしてしまうからです。オレンジジュースなども濃縮還元する工程で風味が飛んでしまうため、 香料を添加しないとまずくて飲めません。そこで自然に近い味付けをして自然に食べられるようにすることが香料の役割になります。
当社では、添加物としての安全性や信頼性向上に加えて、抗酸活性化、生理心理学的作用などの機能性を持った香料の開発に注力しています。また販売網は国 内だけでなく、台湾に台湾塩野香料、中国に上海芳精香料を設立し、現地生産・販売を通じて海外の需要にも積極的に対応しています。

VPM大会参加が導入のきっかけ

ありがとうございます。普段はあまり気づかない香料の世界ですが、その役割の大切さがよく理解できました。ものづくり の感性が重要視される御社において、VPM活動を導入されたきっかけは何だったのでしょうか。

岡: 今から6年前のある日、社長から工場に行ってくれと言われました。もともと総務畑で文系の私には工場の技術的なことはよくわかりません。それで私が工場に異動する目的は工場改革のためであることは容易に理解できました。当時、慢性的な販売不振とシェア 低下に陥っていた当社、その脱却に向けた抜本的な工場改革が求められていたのです。
私が工場に入って、まず考えたことは工場改革をどこから着手するかです。改革の目的は人材育成と生産性向上、そして社長が以前より提言されていた在庫削減 を進めることです。そこで社内でプロジェクトを組んで活動を推進してみたのですが、どの改善活動も途中までは上手くいっても長続きしません。そういう状況 の中でなかなか良い方法も見当たらず1年が経とうとしていました。
ちょうどその頃、テクノ経営総合研究所が主催するVPM大会(第1回開催・2008年7月4日)に参加する機会がありました。私がそのセミナーに関心を 持ったのはプログラムにあるVPM活動の事例発表です。他社の実践事例を聞くことで改善活動を成功させるヒントが得られるのではないか、ここに関心を持ち ました。そして、セミナーでのVPM活動の事例発表には心に響くものがあり「まさにこれだ」と実感した次第です。

工場長ご自身がお感じになったVPM活動の特徴とは何でしょうか。

岡: それはVPMが全員参加でムダ・ムラを削減する活動であることです。これが当社の風土とぴったり合 う印象を受けました。やはり改善活動を成功させる秘訣は全従業員の意識を一つにすることだと思います。当社では過去にトップダウン型の企業改革を推進した 経緯があり、やらされているという感覚が従業員のなかに残っていました。そこで「自分たちがやって自分たちが変えるんだ」という意識が必要だと感じたわけ です。

VPM活動の取り組み

以前、取り組まれていたコストダウン活動の内容はどのようなものだったのでしょうか。

塩野: それはコストダウンを強力に推し進める活動でした。緊急のコストダウンが必要であった背景には子会社の赤字という当時の状況がありました。当社では子会社の事業にかなりの額を投資していましたが、その子会社が大赤字を出したのです。その当時、金融機 関からはグループ経営としての業績が問われていました。連結決算で評価されますから、親会社は黒字でも子会社が赤字だと問題です。具体的には赤字が三期続 くと融資がストップされるため何か手を打たなければ倒産するということにもなり兼ねません。
そこで緊急の対策として短期的に子会社の赤字を補填し黒字を出して行く必要が出てきました。とはいえ私が社長に就任してからは連続して親会社の業績は増益 基調でしたので、親会社にいる従業員にとっては突然のコストダウン活動は意外に受け止められたようです。

相当厳しいコストダウンを進められたのでしょうか。

塩野: 本当に大幅なコスト削減をやりました。そのなかでも一番の波紋を呼んだのは、親会社の従業員に対するボーナス減額です。「儲かっているのにどうしてボーナスを減らすのか」という反発、会社が生き残るために我慢してほしいと説得するのにたいへん苦労し ました。
会社存続のためとりあえず経費削減する。だから管理職にもお願いして給与も少し減額する、社長以下役員が全員賞与を返上するなどを実施していきました。だ から私自身も社長に就任以来ずっと役員賞与をもらっていなかったのです(笑)。しかし、そうしたコストダウン活動を積み重ねた結果、子会社の業績も徐々に 黒字に転換してきました。そこで、今までみんなに無理強いしてきましたから、コストダウン活動を少し緩めてみることにしました。
ところが、そうすると今度は全体の利益率がガクッと落ちたのですね。やはり親会社には危機感の欠如が見られました。そこでこれからの当社には長期的な視点で体 質改善をはかる活動が必要だという思いが出てきました。それがVPMを導入する転換点になったと思います。

VPM活動の概要についてお伺いします。

岡: VPM導入に際して、まず工場診断を受けました。収益体質に向けた指針の説明を受け、社長にも担当の 相澤コンサルタントに会っていただき、社長もこのコンサルタントなら大丈夫だといわれました。
工場診断後のプレゼンテーションでは、初年度は現場の生産性向上から開始する提案を受けましたが、在庫削減に対する社長からの強いご要望があり、半年遅れ で在庫削減にも取り組むことにしました。そして、私自身も2年程度で改善成果を出したいという意気込みを抱いていました。
そうした経緯で取り組みを開始したVPM活動ですが、結果的には全社活動として推移していきます。最初の3年間は大阪工場での生産性向上および在庫削減で高 い成果を生み出しました。そして3年目からは本社・研究開発部でもVPM活動を展開、5年目を迎えた現在、生産本部・営業・研究開発を含めた全社の経営品質を高める活動に発展しています。

生産性向上と在庫削減に取り組む

活動テーマとして在庫削減を重視された理由は何でしょうか。

塩野: 香料の原料には天然物と化学品がありますが、近年では化学品が大半となっています。化学品の特性 は長期保存しても劣化や変質が少ないことで品質上の問題は全くありません。
しかし当社のお客様には食品企業が多いわけですから、WHOなどで定められた安全基準や規制があり、外部監査等を通じて製品の安全性や信頼性に関するチェッ クが入ります。「仕入れ後2年経過した原料は廃棄する」など、かなり厳しい基準が設定されているのが現状です。品質とは関係なしに原理原則的にはねられる わけですが、しかし余計に多くの在庫を保持すればよいというものではありません。
常に必要な適正量の在庫をキープすることが大切です。そういうことを一品一品行っていくことが会社を収益性の高い体質に変えていくことにつながります。誰が 在庫を管理しているのか曖昧で責任体制も不明確だった状況を改革する必要があったのです。

お客様の要望と在庫管理の連動は重要なテーマだと思います。

塩野: 昔から当社の在庫量は業界の平均水準より少し高めでした。お客様に迷惑をかけないようにするため、 これが在庫を多く持つ理由です。いつでもご要望にお答えできるように製品も作り置きすることをやっていました。恐らく、今の2.5倍くらいの在庫があった のではないでしょうか。
今までのコストダウンは短期的な活動としては成功しました。しかし、今後に向けて重要なのは長期的な体質強化を進める活動です。5年10年後の将来、現在 取り組んでいる継続的な生産性向上の活動が会社のDNAとして後輩たちに受け継がれていくようにしなければなりません。

在庫削減活動の取り組みはいかがでしょうか。

塩野: 当社よりも低い在庫水準で回っている同業他社がある、だから何か良い方法があるだろうと思いまし た。そのためには従来の考え方や在庫管理の方法にとらわれていてはいけない。今までのやり方を変えて、常に在庫状況が見える化できるようなシステムを作り上げていく必要がある。そこで、月2回程度の在庫削減プロジェクトでは、生産性向上と連動して在庫を抑える改善を進めていく。ただ在庫を抑えるだけではなく、お客様にご迷惑をおかけしないためにはどうするか、そこで部門を越えた全社活動のシステムづくりを実施したところ、活動目標の7・8割方まで達成できるようになりました。

在庫削減活動の成果はいかがですか。

岡: 大阪工場では、田村本部長が専任リーダーを続けています。メンバーの意見を取りまとめて活動をサ ポートし、リーダーシップを発揮して工場の全員が毎日在庫を確認できる体制を構築しました。その働きは非常にすばらしいと思います。

塩野: お恥ずかしい話ですが、以前は誰も正確な在庫数を把握していない状況でした。在庫数を聞くと「計算してきますので、では1 週間後に」という答えが返ってくる(笑)。
そんな感じだったのが、今は瞬時に出てくるように変わりました。みんなが意識して、どの在庫が多くてどれが少ないかが把握できるようになりました。現在で は誰に聞いても知っています。その位、在庫に対するみんなの関心が強くなりました。また、大量に廃棄していた原料在庫も大幅に削減することに成功しました。

田村: 活動事務局として全員の意識を改善に持っていくことに注力しました。過去の活動では上からの指示 で厳しさだけが全面に出ていましたから、メンバーが自主的に取り組める活動にすることが重要だと思いました。活動の努力が成果に結びついてよかったと思っ ています。

塩野: 現在は一品一品、個別管理で適正在庫数になるよう調整しています。次回の製造タイミング、その生 産計画に基づいて購買部門に通達するといった部門の壁を越えた連携で活動を進めてきました。その積み重ねで評価できる数値まで到達できたと思います。今は 在庫数も業界水準よりちょっと良くなっています。最近では取引企業からも「塩野さんどうやっているのですか」という質問をお受けすることもしばしば、「急に在庫が減っていますが何か手法があるのですか」と同業他社からも聞きにこられる状況になりました。

今後のビジョンについてお伺いいたします。

塩野: 当社の成長戦略として1996年より医薬品の原薬を受託する事業を進めています。原薬とは錠剤や液 体(注射)になっている効き目のある有効成分のことです。市場的に新薬が伸びていることもあり、低コストで開発する製造ルートのニーズが高まっています。 グループ企業の塩野フィネス株式会社では、香料製造で培われた高度な合成技術を活用して事業拡大をめざしています。
また、当社では中国(上海)や台湾で海外生産を行ってきましたが、今後は成長市場であるASEANなども視野に入れた事業拡大をはかっていきたいと考えてい ます。

本日はありがとうございました。


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