コンサルタントボイス
(高橋 恒夫)

#1 設計開発部門が抱えている問題

私が一番大きな問題として捉えているのは、いわゆる受注型ビジネスというところに起因する。お客様からの要望に応じて設計開発し、そしてものづくりを行い、提供していく。こうしたビジネスの中で、仕様がなかなか固まらないといった状況が発生するのだが、納期があるため、まずは設計に着手しなければならない。しかし、仕様が固まっていないため、当然のことながら設計するにしても十分な対応ができず、迫る納期に対して、ある程度の内容で図面を出さざるを得ない、あるいは原材料を発注しなければならなくなる。

結局、中途半端な状態のままでプロジェクトが進行し、後戻りの作業発生につながり、利益や時間をロスしてしまう。本来は製造する商品の価値を見定め、その価値を向上していけるよう、十分な時間を取ってVE(Value Engineering)やVA(Value Analysis)を実施すべきところ、そういった時間を取ることもできない。ここでも、利益損失につながってしまう。

私はこれを“負のスパイラル”と言っているが、このような入り口の部分における課題が非常に重要な問題となっている。昨今では、こういった負の連鎖、負のスパイラルを何とか断ち切りたいという要請を受けて、コンサルティングを行う事例が多い。


#2 問題解決に必要な時間の捻出と人材育成

こうした問題に対し、まず目を向けていただきたいことはいかにして時間を捻出するかという点である。

設計開発のリーダーはいわばセンタープレーヤーのような存在で、製造や営業、お客様といった様々な部門からの要請が全て集中する。そのため、まるで千手観音のごとくあらゆる課題や問い合わせに対処し、いくら手があっても足りないというのが一般的ではないかと思う。そういった中で時間を捻出するために、まずは業務の仕分けを行い、それをしっかりと可視化することで、気づけていない“無駄時間”の発見につなげていく。

私は一番のポイントとして『5%の時間』の確保を提案している。実は5%というと1ヵ月の内の1日に相当する。つまり、この『5%の時間=1日』の余裕を捻出することによって、様々なトラブルにも対応が可能となる。こういった部分からコンサルティングをスタートさせている。

次に重要な点は、開発者のリーダー、一般的には課長職にあたる人材の育成となる。

なぜなら、課長職の設計マネジメントは不十分なことが多いと感じており、そこがキーになると捉えているからだ。私が人材育成で重視しているのは、パソコンにおけるOSのように社会人のOS、つまりベースとなる部分をきちんと構築しておくことにある。そうしなければ、ベースの上にいくら様々なアプリケーションをのせて設計力を高めようとしても、思った通りに能力を発揮できない。だから、まずはそのベースを作り上げるところに一番力を入れているのだが、面白いのは、若手だけではなく課長職でもこうしたベースの部分が充分ではないという声が多いことだ。

さらには、年齢的に35~45歳あたりがボトルネックとなり、若手と課長職とのギャップが大きいといった課題もよく耳にする。そういった場合はコンサルタントが通訳係としてその間を埋めていくのだが、こうした設計開発の中間管理職に対するベース部分の再教育やマネジメント力の強化を指導する機会は非常に増えている。

また、最近ではZ世代といわれる若手に対する教育の要望も強く、大きく価値観の異なる世代に対してどのようにアプローチしていくのか、いかにしてモチベーションを高めていくのかを指導している。

このように若手が成長し、中間管理職となるリーダーがしっかりと人材育成や設計開発のマネジメントを実施できるようになれば、全体の底上げにつながり、様々な問題を解決していけるのではないかと考えている。


#3 設計開発部門の改革こそ、企業の成長エンジンとなる

急速にデジタル化が進んだ現代の情報社会では、様々な物事を簡単に吸い上げることが可能となってしまった。自分の知りたい情報をクリックすれば、ポーンとすぐに表示される便利な世の中になった反面、弊害もあるのではないかと懸念している。

例えば、現在何らかのプロジェクトチームに参加していたとして、そのチームにおける様々な情報は意識的に入手するのではなく、ほぼ自動的に情報が入ってくるという現象が起きる。するとどうなるかといえば、一つひとつの情報に対する意識が薄まり、結果として情報の中にある『本当の本質』はどこにあるのか、そこを掴む力、見抜く力の脆弱化につながってしまう。

このように、本質がなかなか見抜けなくなっていることに危機感を覚えている。日々技術は進化し、製品を構成するパーツの精度も良くなっていき、新しい方式を取り入れる、つまりアップグレードしていく必要があるのだが、そのような中で設計者、技術者として大切になってくるのは物事の本質を掴む力だ。そこをしっかりと磨いていく指導を心掛けている。

直近では原材料の高騰に伴い、大幅なコスト増を余儀なくされており、7~8割のコストが決まるといわれている設計開発部門の責務は大きい。ただ、これは決して設計開発だけの問題ではない。私は『衆知を集める』という言葉を常にメッセージとして発信するのだが、様々な部門が原材料の高騰にどう対処していくのか、事業責任者だけではなく、各部門がそれぞれの立場をこえて、考えやアイデアを出していく。まさに全社一丸となって対応することが重要であると考えている。

こうした中で、その中核となる設計開発部門における各個人の成長、部門全体としての改善、改革こそが、企業の成長を促進させるエンジンとして重要な意味を持つと捉えている。


#4 コンサルタントとしての信条、大切にしていること

多くの技術者の方に『入力点管理』という手法を伝えている。冒頭に述べた問題点やその解決にも通じているのだが、例えば、図面を出す出図の作業で提出が遅れてしまうという事例がよく起きている。

それはなぜかというと、どうしても提出期限ばかりに目がいき、スケジュールを後ろから追いかけてしまうため、スタートすべき日に開始できていないことが多いからである。材料が揃っていない、部品が来ていない、図面が揃っていないとなれば、当然スタートができず、ずるずると先延ばしになり、スケジュールは遅れてしまう。やはり入り口の重要度が高く、『入力点管理』を用いた日程管理の実施を勧めている。

私は常に『something new』、少しでも何か新しいことをする、これを信条にしている。それはコンサルティングの中でも同様で、前述の『入力点管理』もそうした事例の一つだ。

「前回はこういうことを実施したけれど、次はもっと新しいことにもチャレンジしていこう、それをお客様に伝えてこう」と、このような意識を持って取り組んでいる。なぜなら、同じことを行っていては面白味が無く、自分のアイデアを少し入れるだけで、より自分のものとなっていくからだ。そういった気持ちを技術者の方々にも持っていただきたい、常々そう思ってコンサルティングを行っている。

若い世代への期待も大きい。もう一度、日本が世界のトップランナーへと返り咲くためには、これからの未来を創っていく世代の活躍が必須となる。微力ながら、少しでもその後押しをしていきたい、今はそれが私の一番の想いだ。