コンサルタントボイス
(平井 康之)

#1 今なぜ「上流間接部門」の強化が必要なのか?

私は、製造業の間接部門を、頭に「上流」という言葉をつけて「上流間接部門」と呼んでいる。これは、これからの時代の製造業の業務改善を考えるにおいて、製造現場の上流に位置する間接部門の重要性がより高まるという考えからである。

私が製造業の業務改善に間接部門の強化が必要だと思う理由は、製造現場の「現場力の低下」にあると考えている。日本の製造業は、これまで「強い現場の力」で世界と戦い、その地位を守ってきた歴史がある。

ただ、昨今、その現場力の低下に歯止めがかからない実情があるのだ。

そのひとつの要因は、1990年のバブル崩壊である。ここで我が国は終身雇用から非正規社員化に乗り出した。このことで、派遣社員やパート社員、外国人実習生の採用を積極的に始めた。人件費コストは下がったものの、帰属意識を持たない非正規社員が正規社員と同じマインドで働けるかと言えば、やはり仕事に対するモチベーションにも差があり、これが現場の力の低下に繋がる一因となった。

それに加え、ワークライフバランスを重視するなど働き方が変化してきたこと、労働基準法の改正によって残業が厳格化されたことによって、仕事の質だけではなく、量的な部分においても制約ができた。こういったことから製造現場の「現場力」が低下していったと考えている。

もちろん、この低下した現場力を向上させようという取り組みは必要だ。だが、これからは、時勢的に職人が育ちにくい時代であるという前提のもとで組織マネジメントをする必要があると考えている。

このような背景においては、低下した現場力を補うものとして上流間接部門による作り込みが重要になってくる。

海外に目を向けると、欧米ではもとから上流間接部門を中心に企業の組織マネジメントを考えてきたという歴史がある。一方、日本では製造現場、つまり「下流」の力に頼ってきた。

なぜ欧米の企業が上流間接部門の強化に力を注いできたかといえば、現場の力が弱いからである。現場の作業者はヒューマンエラーを起こすものだ、必ずしも組織の意図通りに動かないものだという前提にたち、そういう現場の作業者にも間違いを起こさせないようなマネジメントを上流間接部門で行おうとしてきたからである。一方、日本の製造業では、現場の作業者の能力が高く、そこまで間接部門での高いマネジメントを意識しなくても、現場がさまざまな問題に対処をしてきたのだ。

ところが現在、時代の流れで日本の製造業においても現場力に依存できない状況となってきた。そこで近年、上流間接部門の在り方を見直す必要が生じてきたわけである。


#2 上流間接部門強化のポイント 「フロントローディング」

私は、製造業の課題改善に取り組む際に、最初の段階で、まず上流間接部門に視点を向けてみるべきだと考えている。

問題はできるだけ源流に還って、より前の段階で対処するほうが改善効果として大きい。まず上流間接部門での業務改善を前提に考えて、そこで解決できない問題を製造現場の改善で対応するという流れが、これからの業務改善のあるべき順序である。

自動車の設計などのように、一度決まったものを変更することが難しい分野での業務改善では、どうしても現場での改善活動が主となる。しかし、自動車産業以外の製造業では、必ずしも現場での改善活動のみが最善の策であるとは限らない。上流間接部門を巻き込んだ改善活動を行うことにより、より高い成果が得られる可能性があると考えている。そこに私が上流間接部門の業務改善を重視する理由がある。

最近、企業さまのお困りごとで数多くご相談をお受けするのが、現場でヒューマンエラーが絶えないという問題がある。おそらく、これを多くの企業さまでは現場の問題だと捉えられているだろうと思われる。

例えば従業員の教育が適正に行われていないとか、作業手順がしっかりと確立されていないなど、製造現場内の問題として取り上げられることが多いのではないだろうか。

しかし私は、製造現場以外のところに着目をしている。つまり、ヒューマンエラーが起こりえるような作業を、製造現場に「強いている」のではないかという視点である。図面のやりとりを例にすると、昔の現場力が強かった時代には「少しわかりにくくても、これくらい現場で理解してくれるだろう」ということで済まされて、図面のわかりやすさ、わかりにくさは問題とされてこなかった。

次々に人員が入れ替わるような昨今の人材流動の中では「この図面を見て、どれだけの人が理解できるのか」ということを、設計を担当する上流間接部門が考え、自分たちの課題とできるかが大切なポイントになる。パート従業員にも外国人実習生にもモノが作れる図面でなくてはならない。

最も日本の製造現場に力があった時代と比較すれば、現状でも十分に上流間接部門での作り込みを行っているという意見もあるだろう。しかし、現在の時勢を鑑みると、それでもまだ足りないくらいに現場力の低下が著しいのが現実だ。

私は、クライアント企業様に対し、上流間接部門の改善・強化のご指導をさせていただく際には「フロントローディング」という言葉を用いて、これを経営理念や方針の中に加えていただくようにしている。

フロントローディングとは、設計や生産管理、購買、品質保証、生産技術など上流間接部門に、より多くの時間や人材を投入し、作り込みの精度を上げ、製造現場の生産性を高めようという考え方だ。つまり上流側で作り込むことこそが、業務改善にとって最重要課題なのだということを経営者の方に訴えかけ、会社として、最初からそういう発信をしていただくわけである。

ただ、この上流間接部門で作り込むことにより現場の生産性を上げるフロントローディングの考え方が社内に完全に浸透するまで、数年はかかるものと見積もっておくべきである。少なくとも3~5年は、フロントローディングを念頭においた改善活動を継続する必要がある。

今、日本の製造業は重度の「現場依存症」に陥っていると、私はみている。何か問題が起こると現場で解決をする、あるいは自主自立で課題を克服するという方法論で仕事をしてきた年代の方々が経営層にたくさんおられるなかで、問題を上流間接部門での作り込み不足に求めることに抵抗を感じられる例も少なくない。

この抵抗感を払拭するには、前述したフロントローディングの考え方を経営理念や方針に加えていただくだけでは不十分である。この問題には一つひとつ細かなご指導をして解決していくしかない。

例えば現場で「この工具が使いづらい」という課題があったとする。すると解決策として「工具を変えてみよう」という発想の改善案がでてくる。そこで我々コンサルタントの出番である。我々は「そもそもそれは工具を使わないとできない作業なのですか」という視点のご提案を投げかけるのである。「そもそも」というキーワードにおいて「工具を使わないとモノがつくれない」という固定化された発想から、一度脱却しましょうというご提案を行うのだ。

当然のことながら、現実には工具を使わないとできない作業はたくさんあるが、ただ、そういった問題提起をすることで「それだったら設計のほうで何か考えてみよう」とか、「生産設備部門で、こういう設備の導入を検討してもらえればできるのでないか」などといった発想が生まれてくる。こういった気づきを伴う問題提起を丹念にやっていく必要があるのだ。


#3 フロントローディング 上流間接部門強化へのアプローチ

上流間接部門の機能を高めて、製造部門の生産性をあげるフロントローディングの考え方を実現、実践するのには、いくつかの強化ポイントがある。

ここで上流間接部門の部門ごとの強化ポイントを挙げてみよう。

生産管理部門なら、強化のポイントは平準化だ。一品多品種生産が進む中でも、生産管理部門がモノを整え、生産の順番を入れ替えるなどの工夫をして、現場が淡々とリズミカルに効率よく生産が行えるような環境づくりが生産管理部門に求められることである。

設計部門においては、いままで現場スタッフの技量に頼っていた部分をパート職員や派遣社員でもモノが作れるような図面が用意できる力をつける。

一品多品種化により大量・複雑化した部材の準備作業を、購買部門が購買の段階で整理し、いかに生産効率のよい方法で部材を製造現場に届けられるかも非常に大事なポイントだ。

品質保証部門は、品質の不足を取り締まる部署だが、現在は品質不足よりも、逆に過剰な取り締まりが問題になっている。そこに適正な基準を設け、過剰な取り締まりを管理することが品質保証部門に求められている。

こういった時代の流れに沿った上流間接部門の強化ポイントは、挙げればいくつも存在するが、これをそのまま企業さまにご指導しても効果的な改善活動の実行は非常に難しい。

そこで大切になってくるのが、「今、製造現場ではこういうことに困っている」という製造現場から上流間接部門への情報のフィードバックである。そのフィードバックに上流間接部門が真摯に向き合い、問題解決に動く。「今、製造現場がどういったことに困っているのか」を知り、その問題に対し「こういう改善方法をとれば、これだけ時間が短縮できる、作業の効率化が図れる」ということを上流間接部門が考え、そして学ぶのである。

この流れが、これから質の高いフロントローディングの仕組みをつくるための台座となる。製造現場の役割は、問題を上流間接部門へフィードバックすることであり、それを上流間接部門が改善し、整理して、全体としての生産性を上げていくというサイクルが必要なのである。

上流間接部門の業務改善において、まず何に着手すべきか、今、何が重要なのかは現場の作業者が一番よく知っている。だからこそ製造現場からのフィードバックを重要視しなければならないのだ。

もし、上流間接部門の業務改善の必要性を感じながら、その着手点がわからないという経営者や管理監督者の声があるのであれば、まずは製造現場の問題発見力を高め、それを上流間接部門に発信し、上流間接部門でそれをしっかりと受け止めて改善に動く、こういう仕組みづくりをはじめるべきだ。この仕組みがサイクルとして回り始めると、自然と上流間接部門は変わり始める。

一部の業界を除いた製造業全般において、上流間接部門の強化、フロントローディングの考え方が、今後ますます重要になってくると私は考えている。

フロントローディングを進める際に何が問題になるかといえば、それは組織の問題である。

企業の業務改善をご支援するコンサルティングを行うにあたって、私が最も重要視しているのは、専門性や固有技術の有無ではなく、組織をいかにうまく動かしていけるかということである。今まで、製造現場に焦点を当てて改善活動を行っていたときは、製造現場に対して改善の方法や他社事例からの応用、問題・課題を発見する手法をお伝えし、ご指導するだけでよかった。

だが、フロントローディングの強化を目指すとなると、その現場での問題を上流間接部門に伝え、そこでの改善を求める必要がある。つまり、製造現場と上流間接部門との組織連携の重要性が発生するのである。

しかし、日本の多くの企業が抱える問題として、今までその組織連携というものをあまりやってこなかったという経緯がある。この組織連携をうまく構築するためには、まずキャリアや立場に関わらず、誰もが気づきを提案できる環境を整えなければならない。社内での力関係やキャリアの差などでフィードバックがうまく伝わらない環境では改善活動は進まない。

ただ、社内だけで組織づくりをしていたのでは、どうしてもこういった部分は露呈してきてしまう。

そこで、この組織連携の仕組み作りこそ、社外の人間である我々コンサルタントの力を利用していただきたいと考えている。業務改善のプロであり、かつ冷静な第三者目線を持つ我々コンサルタントは、フィードバックされたさまざまな意見や問題提起において、どれがその企業さまにとって改善すべき重要課題なのかをジャッジする能力を有しているからである。そして、その理由をしっかりご説明することができるし、「見える化・表面化」させることも可能なのである。


#4 コンサルティングをおこなううえでの信条と展望

私がコンサルティングを行う上で重要視しているのは、クライアントである企業さまの「表の組織図に表われない社内の構図」を理解したうえで、誰にでもご納得いただける形で改善を進めていくことだ。

特に中小企業様は組織連携の形が整っていないことが多く、よりこの部分を重視してご支援を進めている。この組織連携の仕組みというものをしっかりと構築すれば、「こじんまり」とした改善活動に終始することなく、もっとダイナミックな全社規模での改善が実現できるからだ。

私は、今後、より多くの企業さまの改革、業務改善をご支援するためには、コンサルタント自身も変化をしていかないといけないと考えている。

製造現場だけではなく、今回テーマとしてお話をした間接部門の課題解決にも対応していけなければならないということも、まさに求められる変化のひとつである。

以前は製造現場のことを知っていれば、製造業へのコンサルティングは成り立っていた。しかし、現在では製造現場の課題からスタートしても、いずれ上流間接部門の問題へと広がっていく。そのとき、コンサルタントには製造現場の改善の知識だけでなく、設計や購買、品質管理部門など上流間接部門の知識にも精通している必要がある。

今後、日本の製造業の発展に、コンサルティングという分野で関わっていくうえにおいて、コンサルタントに求められる知見や知識は、ますます広範なものとなるだろう。

一人のコンサルタントとして、そういったご要望にお応えするのはもちろんだが、テクノ経営の責任者のひとりとしても、広範なテーマに対応できるコンサルタント育成と人材開発に力を注いでいくつもりだ。