2026.09.02
人を育てる前に、仕事を変える ―「人が足りない」と言う前に、一度、現場を見てほしい―
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執筆者:

山本 知秀
製造業の経営者の方と話をしていると、この言葉を本当によく耳にします。採用しても人が来ない、若手が定着しない、ようやく仕事を覚えたと思ったら辞めてしまう、ベテランが抜けて任せられる人がいない──そんな状況から、「だから人材育成が必要だ」となり、管理職研修や若手研修、OJTの見直し、マニュアル整備などの話に進んでいきます。もちろん、それ自体は必要な取り組みです。
ただ、工場やオフィスの現場を見ていると、ときどき「その前に、この人たちは普段どんな仕事をしているんだろう」と立ち止まりたくなることがあります。ある会社で、生産管理担当者の一日を追いかけてみたところ、朝からずっとパソコンに向かっていました。一見仕事をしているように見えるのですが、実際には過去の資料を探し、あちこちに確認し、返事を待ち、Excelに入力し、別システムにも転記し、最後に上司と営業に再確認するという流れの繰り返しで、一日の多くが「探す」「待つ」「確認する」「転記する」「修正する」に費やされていました。
誰もサボっているわけではなく、皆とても真面目です。それでも、一歩引いて眺めると、「自分で考える」ための時間や心の余裕がほとんど残っていない状態で、「もっと主体性を」「もっと自分で考えよう」と言われていることに、少し気の毒さを覚えます。人は研修だけで育つのではなく、仕事の中で自分で考え、決めて、提案し、やってみて、うまくいかなければ理由を振り返る──その経験の積み重ねで育っていくからです。
私は、人材育成を考えるとき、「何を教えるか」より先に、「その人は普段どのような仕事をしているのか」を見ます。なぜこの仕事があるのか、なぜこの人がやるのか、なぜ毎回別の部署に確認がいるのか、そして、最後に「これ、本当に必要な仕事ですか?」と聞いてみる。すると、「昔からやっているから」「前任者から引き継いだから」「他部署に頼まれているから」「そういう決まりだから」「念のため」という理由だけで残っている仕事が、驚くほど見つかります。
10分かかる仕事を8分に短縮する工夫も大事ですが、本当に考えたいのは「どうやって8分にするか」ではなく、「そもそもこの10分の仕事は必要なのか」という問いです。この10分がなくなれば、人は別のことを考えることができ、若手に少し難しい仕事を任せることも、新しい取り組みに挑戦することもできます。そうした「余白」が生まれて初めて、人は現場の中で育っていくのだと思います。
「人が足りない」となると、どうしても採用や教育、マニュアル化、マルチスキル化などに目が向きます。しかし、その前に一度、現場で一人の一日をじっくり追いかけてみてほしい。何を探し、何を待ち、何度同じ情報を入力し、誰に確認し、なぜ修正しているのか、その目的は何なのか。そうやって仕事の実態を見直してみると、「人が足りない」のではなく、「そもそもやらなくてもよい仕事を、人が真面目にこなしている」「人でなくてもできる仕事を、人がやりすぎている」「目的が曖昧な仕事を、実は人が増やしてしまっている」という姿が浮かび上がってくるはずです。
人を育てる。その前に、仕事を変える。人材育成を本気で考えるなら、この順番を意識することが、案外いちばんの近道なのかもしれません。







