コラム/海外レポート

2023.05.23

国際卓越研究大学制度で再び日本の研究を世界最高水準へ

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国際卓越研究大学制度とは

近年、海外におけるトップレベルの研究大学は豊富な資金を背景に研究力を強化している。一方、日本の大学は研究論文の質・量が低調な状況にある。海外の大学は公的な財政支援や民間企業との連携、寄附、資産運用など、多様な財源を利用して研究環境を充実させ、世界トップレベルの研究人材が集い、新たな研究、人材の流入、民間企業からの投資や寄付を呼び込むといった好循環が形成されているためだ。

日本の大学も、機能拡張を進めながら、国際的な切磋琢磨を通じて研究力を向上させることが必要であり、そのためには、世界トップクラスの研究者を獲得するだけでなく、次代を担う自立した若手研究者を育成し、活躍できるようにするための資源配分や研究時間を確保するための負担軽減、大学が持つ知的資源の価値化等に取り組む必要がある。

そこで、国際的に卓越した研究を行い、経済社会に変化をもたらす研究成果を生むことが期待できる大学を認定し、年間最大約3,000億円の助成を受けることができるのが国際卓越研究大学制度だ。低迷する日本国内の研究活動を活性化させ、世界最高水準の研究とそれによる新たなイノベーションの創出を目指す。

日本政府が創設した10兆円規模の大学ファンド

国際卓越研究大学制度を支援するために日本政府が新たに創設したものが「大学ファンド」だ。科学技術振興機構(JST)に大学ファンドを設置し、10兆円規模の運営を目指している。国際卓越研究大学制度で指定された大学は、その運用益で支援を受け、様々な研究や人材育成などを実施していく。年間最大約3,000億円の運用益を目指しており、仮に5校が認定を受ければ、単純に1校あたり年間600億円の支援を受けることができる。

大学基金の規模を海外トップクラスの大学と比較すると、ハーバード大学で4.5兆円、イエール大学で3.3兆円、スタンフォード大学で3.1兆円、それに対して日本の大学では150億円~730億円と大きな差がある。国内最高峰である東京大学の基金規模は150億円、じつにハーバード大学の300分の1となる。資金力が乏しいため、若手研究者に十分な給与やポストが提供できず、その人数は減少しており、博士課程への進学率も同様に減少の一途を辿っている。研究者が減少すれば、当然研究に伴う論文の提出数も減少するため、結果的に国際的な論文競争力は低下する。引用数が上位10%に入る良質な論文数において、日本は1990年代後半ではアメリカ、イギリス、ドイツに次ぐ4位だったが、2018年には11位まで順位を落としている。

日本の研究をもう一度、世界の最高水準へ

2023年3月末、国際卓越研究大学制度の公募が締め切られた。文部科学省の発表によると、国立大学は指定大学のうち一橋大学を除く9大学の8件(統合を予定している東京医科歯科大学と東京工業大学は共同での申請)、私立大学で2件、合計10件の申請となったようだ。具体的には、国立大学は東北大学、東京大学、筑波大学、東京科学大学(仮称:東京医科歯科大学・東京工業大学)、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、私立大学は早稲田大学、東京理科大学となる。2024年度の支援開始に向け、文部科学省は2023年秋頃にかけて段階的に絞り込む。

国際卓越研究大学制度に選定された大学は、大学ファンドによる支援が最長で25年間にもおよぶ。この支援により日本の大学が目指す将来の姿として、「世界最高水準の研究環境(待遇、研究設備、サポート体制等)で、世界トップクラスの人材が結集」「英語と日本語を共通言語として、海外トップ大学と日常的に連携している世界標準の教育研究環境」「授業料が免除され、生活費の支給も受け、思う存分、研究しながら博士号を取得可能」の3つがある。こうした理想の姿を達成することで、世界最高水準の研究大学から新たなイノベーションを創出し、持続可能な社会を実現する。そんな未来につながる、大きな一歩を踏み出している。

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