コラム/海外レポート

2022.03.07

日本におけるスマートファクトリーの近況

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製造業にとってのスマートファクトリーの実現は、単なるトレンドへの追従ではなく、生産性向上や品質管理、労働力不足へのひとつのアプローチとして非常に有益であるのは明白だ。
しかし、スマートファクトリーの実現には解決しなければならない問題点も多い。

そんな難題に取り組む限りは、よくある「目的と手段の取り違え」による失敗は是が非でも避けなればならない。
そういった意味でも、今一度、スマートファクトリーについて、その意味や意義を整理する必要がある。

経済産業省発行の「ものづくり白書」その2020年版のデータでは、自社工場でデジタル技術を活用しているかという問いに「している」と回答した企業が約半数。
しかしその6割が大企業からの回答で、中小企業のデジタル技術導入率は50%を切る数字となっている。

スマートファクトリー化によって大きな成果を上げる企業がある一方、スマートファクトリーの重要性や有用性は認識しつつも、その実現に一歩を踏み込めない企業との間で二極化の様相が今後ますます進んでいくという予測がある。

その理由のひとつが設備や機器に対する投資の問題だ。
スマートファクトリーの導入には、設備とネットワークをつないでデータを集め、蓄積していく必要がある。
そのためスマートファクトリー化をするには、AIやIoTの活用を想定していない古い機器や設備を刷新する必要があり、それに多額の資金が必要となる。
また、例えばロボットを導入したとしても、その操作や動作プログラミングには専門的な技術を要する。
そういった導入時におけるさまざまなコストや技術的障壁が、資金力のない中小企業にとっては、その重要性と必要性を理解しながらも、実際のスマートファクトリー化が進まない要因となっている。

もうひとつ、スマートファクトリー化にあたって考慮すべき点が、セキュリティの問題だ。
先日、トヨタの協力会社で起こったランサムウェアによるサイバー攻撃は記憶に新しいが、あのような事態が頻繁に起こったり、攻撃を受けた際の復旧に甚大な費用と時間を要して
しまうようでは、スマートファクトリー化により生み出した事業拡大のチャンスや新たな付加価値の創出も、水泡に帰してしまうのである。
そういった意味においては、スマートファクトリー化に伴うシステム・セキュリティ強化に支払うコストは、導入を考えるうえで無視できない要素となってくる。

日本政府は、来るべき少子高齢化に伴う将来の労働力不足への施策としてロボット導入によるスマートファクトリー化を打ち出している。

生産性向上や労働力不足へのアプローチとして、スマートファクトリー化が有用なものであるということは疑いようのない事実ではあるが、実際にAIやIoT、最新ロボット技術が現場に導入され、有効的に運用されなければ、その効果はない。

今後、スマートファクトリーによって日本のものづくりの現場を変えていくのであれば、単に高技術化・高機能化を追い求めるのではなく、いかに導入に対してのハードルを下げられるかといった目線での技術的アップデートも必須となる。

このほど、ある企業が高度なAIを活用し、ロボットの動作プログラムを音声認識AIや視覚的なイメージで設定・構築できる技術の開発を発表した。
このシステムは、専門知識を持たない人でも、ロボットに対する動作プログラムの構築が音声指示やタブレット操作などで直感的に行えるというものだ。
これはロボット・システム自体の高性能化というより、導入のしやすさに着目して高度な音声認識AI技術を利用した一例である。

今後の我が国のスマートファクトリー化の流れは、単なるシステムの高機能化ではなく、上述のような、スマートファクトリーの普及を牽引するような技術にも注目して動向をとらえる必要があるだろう。

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