「メイド・イン・アメリカ」復権の兆し
日本が低成長の苦境にあった1990年代、アメリカでは景気拡大が続いていた。グローバルスタンダードといえばアメリカ流だった当時、ITによる永続的な経済成長を主張する「ニューエコノミー論」が盛んだった。
ところが2000年代以降、状況は一変する。ITバブルの崩壊や同時多発テロ、リーマンショックなどでアメリカ経済は不況に陥り、いまだ成長戦略に復帰できていない。
アメリカの復活、そして持続的成長は可能なのか?
国際情勢の勢力図が様変わりするなか、アメリカの製造業企業が国外拠点中心の製造体制から国内回帰への動きを活発化させているという報告を複数のビジネス系webサイトが伝えている。
グローバルなサプライチェーン戦略はさまざまな利点があるとみられてきたが、全世界的な規模で構造の複雑化が進むと、逆にリスクが高まるとの見解が出始めているという。
確かに輸送の時間的・金銭的コストの問題や、投資先の政変や天変地異といったリスクについてはコントロールしがたく、国内回帰を模索する理由としては十分なもののように感じる。
そのような事情を抱えるなか、アメリカ製造業は「メイド・イン・アメリカ」復権の兆しを見せているのである。
コロナ禍でつきつけられた脆弱性
このコロナ禍において、日本でも一時マスクや医薬品、医療機器、防護用品などの品薄状態が続き半パニック的な状況がみられたが、アメリカにおいてもそれらの事象は少なからず引き起こされた。
コロナの再燃はもちろん、いつ新たな感染症によるパンデミックが起こるかわからないというリスクを抱え、これら医療関係製品の製造を他国に依存する図式は見直すべきとの意見があり、そしてこの考えは、あらゆる製品についての自給自足体制強化論に広がりつつあるのだ。
かつての「海外展開のメリット」は、もはやメリットではなくなった
90年代、アメリカをはじめとする先進国は人件費の安価な中国など当時の発展途上国に製造拠点を置き、それがそれらの国の製造業台頭の牽引役となった。
その結果、特に中国では人件費の高騰を招き、製造を委託する拠点としてのメリットが急速に薄れつつある。
そこに輸送コストが加われば、輪をかけてデメリット感は膨らんでいく。
とはいえ、現状ではいまだアメリカの医療品や半導体製品の半分近くは海外で作られている状況があり、現実と国内回帰論には乖離がみられる。
日本での「国内回帰論」の実態
日本でも、この度のコロナ禍の影響やコスト面での「旨味」の低下という状況を受けて、一部で国内回帰を模索する動きが出始めている。
食品や日用品、そして半導体メーカーの一部において国内で新規工場の建設や工場建設用地確保の動きが出始めているというのだ。
今のところ、それに向けてのリサーチや準備に複数企業が動いているレベルで、まだ本格的な動きとまではいっていないようだ。
コスト面の問題に加えて、国内投資に国からの補助金が出るなどの要因もあり、近い将来、
日本での国内回帰の動きが活発化することは確かな状況ではある。
ただ、直近の問題としてコロナの影響が完全に払拭されていないうちは、実際の動きが具体的に本格化するのはまだ先のことだとの見解が強い。
国内回帰では一歩先をいっているアメリカの製造業の動きを注視しながら、日本企業においても本当に利益を生み、価値のあるグローバル戦略とはどういったものか再検討をしてみる必要があるだろう。