コラム/海外レポート

2021.10.09

受注型ビジネスにおける負の連鎖を断ち切る!
設計開発・生産『一体強靭化』戦略

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執筆者:

高橋 恒夫

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バリューチェーンに潜む、利益損失の「負の連鎖」とは何か

 バリューチェーンとは、マイケル・ポーター(Michael E. Porter)が、著書『競争優位の戦略』で用いた概念である。競争優位性向上のため、企業の各機能単位が生み出す価値を分析し、その最大化に向けた戦略を検討する枠組みで「価値連鎖」と訳される。
 それは、たとえば受注型メーカーであれば、営業・設計開発・資材調達・生産製造・検査・出荷・サービスといった一連の流れで構成される。それぞれの部門が強みを活かして価値を創出し、相互に連携して競争優位性向上を図ることが本来の目指すべき姿である。

 ところが実際には理想通りにはいかない場合が多い。バリューチェーンが機能不全に陥って、数々の問題を引き起こしている職場が多い。たとえば営業部門が受注してきたが概略仕様だけで詳細は不明、設計開発がいざ取り組んでみると途中で顧客からの仕様変更が頻繁に入り、かつ短納期を要求される案件だったというケースも多い。
 設計開発部門が抱える昨今の課題として、マネジメントスキルの不足が挙げられる。人材不足の職場では経験が浅い技術者ばかりで図面品質が低く、また旧態依然で新しい構想開発ができていないなどの職場も多い。業務に余裕がなく、短い時間で設計を進めねばならない状況では、追いかけ仕事になり時間に謀殺されてしまう。そして出図ミスや手配遅れ、変更や修正などが頻発、また設計検討が不十分なために手直しが多い。手戻り、手直しでコストが膨らみ利益を損なってしまう。これでは儲かるわけがない。

 バリューチェーンの流れにおいて、価値を上手く繋ぐことができず、本来なら得られるべき利益を喪失させてしまっている。設計開発と生産現場の部門間の壁により、双方にムダな作業時間や機会損失が度々発生している。たとえば、生産現場から見れば十分な引継ぎが為されていない、出図遅れによる納期圧縮、作業性の悪い設計のために作業に手間取るなど、こういったギャップを感じていないだろうか。
 反対に設計開発の側では生産現場からの問い合わせに対応するため業務を中断せざるを得ない。あるいはモノづくりに関するスキル不足のため設計に手間がかかる。あるいは現場で手直しした作業がフィードバックされていない。本当ならもっと稼げるのに、みすみす機会損失を繰り返している。その背景にあるのがバリューチェーンに潜む部門間の壁だ。

設計開発と生産現場の『一体強靭化』戦略

 設計ミスによる後工程でのロスはどのくらい広がるのだろうか。ある造船会社では設計不備により大きな損失が発生した。その職場では機器台の図面不備により取り付け不良が起きたが、それに伴う工事に要した時間が再設計の時間の30倍近くにも達していた。
 現場との事前の打ち合わせが行われていれば防止できた問題ではないだろうか。部門間に潜む「ぶ厚い壁」を打ち壊すには、お互いの連携を促す仕掛けが必要である。
 ある会社では、それぞれの設計開発と生産製造の部門長をあえて入れ替えた。ミドルマネジメント層の意識変革を促す荒療治だが、これが功を奏して、課長・係長職が「自ら頑張らなければ」と思いだした。部門長が逆の立場に立てば「なるほど」と感じることもあるわけである。
 利益創出にベクトルを合わせるための部門連携の強化、これを私は『一体強靭化』と呼んでいる。

ワーキンググループ活動で課題解決

 部門間に連携を生み出すために、私はワーキンググループ活動を提唱している。
その目的は、異なる部門からのメンバーでワーキンググループにより、課題の共有化を図ること。たとえば設計と生産部門であれば双方から2名ずつを参加させ、4名のグループを単位とする。そして、ワーキンググループでは部門間に横たわる課題をいかに解消するかをテーマに活動させるのである。このワーキンググループ活動を通じて、お互いの立場に対する理解が深まり、双方が日常的に感じている悩みの共有化により一体感が醸成される。
 「異種結合」という複眼の思考が特色のワーキンググループ活動からは、新たなアイデアや斬新な発想が生まれてくる。それを仕組み化していくことでバリューチェーンをより強固なものにすることができる。議論の積み重ねにより、活動を離れても本音で意見が言い合える人間関係づくり。それがワーキンググループ活動の狙いである。
 テクノ経営のコンサルティングでは、個々のワーキンググループについてコーチングを実施し、活動を通じて『一体強靭化』のための具体策により成果を創出している。バリューチェーンを強化する『一体強靭化』により、利益体質のモノづくり企業を目指すべきではないだろうか。

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