コラム/海外レポート

2021.07.27

国産ワクチン開発の課題

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東京五輪が開幕し日本勢の活躍が目覚ましいが、首都圏を中心に変異株による新たな感染者が増えている。コロナ対策の柱であるワクチン接種。すでに国内では 65歳以上の約84%が1回目の接種を終えている。しかし使用されているのはすべて外国製ワクチン。それに対して、国産ワクチンの開発状況は一体どうなっているのか。
実は国内でも、各社各様のバイオ技術を駆使したワクチン開発が急ピッチで進められている。たとえば大阪大学発バイオベンチャーのアンジェスでは「DNAワクチン」を、大手製薬業では、塩野義製薬が「組み換えタンパク質ワクチン」、第一三共がファイザー製と同じ「mRNAワクチン」の開発を進める。他にも明治ホールデイング傘下のKMバイオロジクスではウイルス毒性をなくした「不活化ワクチン」を、また「ウイルスベクターワクチン」などを開発中の企業もある。
それぞれの技術には長所と短所があるが、最も重視されるのはワクチンの有効性と安全性ではないだろうか。新しい技術であるDNAやmRNAを用いた遺伝子ワクチンは、開発期間は短いが生体に与える長期的な影響については未知の部分も多い。これに対して、従来型の「不活化ワクチン」はインフルエンザワクチンと同じタイプのため安全性は高いが持続効果は短いとされる。従来のワクチンに対してどのような優位性を打ち出していくか、ここに各社の戦略がある。
一方で国産ワクチン開発には別の課題もある。それは80年代以降、国内ではワクチン開発をした経験がなく、何万人規模で実施する臨床試験のノウハウが乏しいことだ。
WHO(世界保健機関)によれば、現在世界中で行われているワクチン開発の臨床試験は87件、臨床試験の前段階にあるものが186件だが(2021年4月9日時点)、従来の臨床試験とは、開発中のワクチンと偽ワクチン(無害だが効果はない)を2グループに分けて接種することで、その有効性と安全性を確かめるものだ。
臨床試験では、どちらを打つかを被験者には知らせない。偽ワクチンを投与される人は一定の期間、正式なワクチン接種を受けられないリスクを背負う。無言で偽ワクチンを打つ行為は許されるのか。臨床試験の倫理性を問う声を含め、「大規模臨床試験」の実施がワクチン開発の大きな壁となっている。
そこで国産ワクチンの臨床試験として考えられているのが数千件のレベルで確認できる「非劣性試験」という方式。ここでの比較対象は開発中のワクチンを接種した集団と外国製のワクチンを接種した集団の2グループ。接種後の抗体数値を検証し、すでに実用化されているワクチンと比べて遜色がないことを確認するものだ。アンジェスでは500人規模の臨床試験を第一三共や塩野義製薬なども臨床試験を進めている。今後も新型コロナに対するワクチン接種は毎年必要になって可能性が大きい。国内ワクチンの実用化は2022年になりそうだが、高品質で安心・安全の国産ブランドを立ち上げていってほしい。