コラム/海外レポート

2021.07.06

老舗企業の特質とは何か

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「日経ビジネス」が会社の寿命30年説を提唱したのは国内が好景気に沸く1983年。当時として過熱する社会状況に警鐘を与えるセンセーショナルな記事だったが、日本経済はその後バブル崩壊による長い混迷の時代を迎えることになる。
それから40年近い年月が経過したが、いま会社の寿命はどういう状況にあるのか。それを示すデータとして、東京商工リサーチによる「主要産業平均寿命」(2018)の調査がある。それによると、会社の平均寿命は23.8年。業種別では製造業が最も長く33.9年となっている。やはり会社の寿命は30年程度なのか。
いやそうではない。その一方で古い伝統を持つ老舗企業が日本に多いのも事実。実は世界にある約8万社の老舗企業(社歴100年以上)のうち実に40%が日本に存在しているのだ。
なぜ日本には老舗企業が多いのか。その理由には諸説ある。家督相続が維持されてきたことや日本社会が侵略・植民地化の歴史を経てこなかったことに根拠を求める説もある。しかし現在の老舗企業が抱える一番の悩みは家督相続の問題、将来を担う後継者不足にある。実際に後継者の育成が出来ずに倒産・廃業する企業は多く、先ほどの東京商工リサーチの調査によれば、社歴30年以上の老舗企業が倒産する割合は2011年以来、30%前後で推移しているという。
「稼ぎに追いつく貧乏なし」と寅さんはいったが、創業231年という柴又帝釈天近くの料亭「川甚」もコロナ禍の影響で店を閉めた。いかに老舗企業といえども顧客との接点が失われては生きていけない。これはどんな業種や業界にも共通する生存の条件なのだ。
企業の衰亡を招く要因として、過去の成功体験に固執して新しい変化を受け入れないという傾向も否めない。ただ社歴の長さを誇るのではなく、柔軟な発想で時代と共に変化していけることが生き残る老舗企業の条件ではなのだと考える。
アイデンティティーというものは外部からの眼差しで作られる。筆者は老舗企業に共通する特質を「関係性」のなかに見出した。広報という立場で発信する一方的なアピールではなく、第三者が生み出す評価や評判が本来のコーポレートアイデンティティーを形成する。外部の視点とは顧客であり取引先である。SNSや口コミによる企業イメージや製品コメントの波及効果はケタ違いに大きい。老舗企業であるほど、顧客や取引先からの信頼感を維持するためにトータルな企業品質とサービス向上に力点を置いているはずだ。
 近江商人の教えに「三方よし」がある。売り手よし・買い手よし・世間よしという関係性の維持に商売の極意があるとする思想だ。一時の利益だけを求めるのではなく、100年、200年というスケールで事業を受け止めること。それが伝統を重ねる老舗企業の特質なのではないか。何事も持ちつ持たれつである。お客様やパートナー企業との良好な関係づくり、そして社会に貢献していくこと。それを続けていくことが老舗企業への道なのではないだろうか。