コラム/海外レポート

2021.02.15

ヒューマンエラーは何故起こる?人間の情報処理システムとの関係性から解き明かす

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  • ヒューマンエラー

執筆者:

岩崎 行緒

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アフターコロナ時代の製造業においては、工場のデジタル化を中心とした「自動化」「省人化」の取組みが、大企業などで一気に加速することが予測されるが、日本のものづくりを支える多くの中小企業では、今後も属人性の高い作業が残り、一足飛びに自動化された新しい生産ラインを構築するようなことは現実的ではないと思われる。そして今後も現場に人が関与することで、人為的ミスが発生する可能性があり、これらのミスがものづくりの現場にとって致命傷となる危険性が存在し続けることになる。「人間は基本的にミスをするものだ」ということを認めることはヒューマンエラーを考える上での大前提だが、逆に言うとこれについて理解・納得して取組まない限り、ヒューマンエラー対策は不十分なものとなってしまう。より実効性のあるヒューマンエラー対策を実施するためには、この人間の本性についての視点が必要不可欠なのだ。

さてヒューマンエラーを考える上で、保険会社の調査係であったハインリッヒが1929年に公表した「ハインリッヒの法則」は重要な視点の一つである。これは1件の重大災害の裏には29件のかすり傷などの軽微な災害があり、さらにケガは無いものの300件のヒヤリ・ハット体験があるということを示したもので、5000件という膨大な数の労働災害に関する調査・分析・解析の結果である。ハインリッヒは学者ではないため、あくまでも目安としての数字ではあるが、1:29:300という比率で災害が発生しており、さらに300件のヒヤリ・ハットの下には、2000~3000件の潜在的な問題や災害の種があることも示されている。これは1件の重大な災害が起こった場合、2000~3000件の不安全行動・不安全状態が、日常的に気付かれず潜んでいるということを示唆していて、この不安全行動と不安全状態の比率が不安全行動9、不安全状態1となっていることから、問題、災害の原因の実に9割が人に関連するものということもわかった。

ヒューマンエラーの定義例としては「ヒューマンエラーとは、一連の行為における、ある許容限界を超える行為、すなわちシステムによって規定された許容範囲を逸脱する行為」「ヒューマンエラーとは達成しようとした目標から、意図せずに逸脱することになった、期待に反した人間の行動」「ヒューマンエラーとは元々人間が持っている諸特性と、人間を取巻く広義の環境が相互に作用した結果、決定された行動の内、ある期待された範囲から逸脱したものである」など様々なものがあるが、本コラムではシンプルに「結果に関らず事故の原因となり得る人間のミス全般」と規定しておきたいと思う。
ところで皆さんの会社ではヒューマンエラーが発生した際、ミスをおかした人間に対してどのような反応をしているだろうか?ひょっとしたら「ボケッとしているから間違うんだ」とか「注意してないからこんな失敗になるんだ」などと個人の責任を追及するような反応になってはいないだろうか?またミスに対する再発防止策としては、職場で働く人への注意を促すための通達、ポスター、ミーティングなどがよく見受けられるが、ヒューマンエラーは個人だけの問題ではないため、個人攻撃のような考えに基づいて再発防止策を実施しても、その背後にある真の原因にたどりつくことはできない。例えば「集中力を奪う原因があったのでは」「見間違いをおこす誘因があったのでは」「報告しづらい要因があったのでは」というように、責任追及ではなく原因追求の視点を持つ事がヒューマンエラー対策では非常に重要となる。

ヒューマンエラーの分類についても述べておきたい。人間が引き起こしたミスは意図的に行われた「違反」を除くと、ヒューマンエラーは「ラプス」「ミステイク」「スリップ」の3つに大別される。「ラプス」とは忘却、ついうっかり忘れてしまったことに起因するものを指し、「ミステイク」は情報伝達/認知・判断の段階、つまり動作の前におけるもので、そもそもやろうとしていたこと自体が間違っていたことに起因する。そして「スリップ」は行動の段階、つまり動作の実行中におけるもの、やろうとしていたことは間違っていないが、その動作が正しくできなかったことに起因するものである。

そしてこの「ラプス」「ミステイク」「スリップ」は人間の情報処理過程におけるエラーと密接に関係している。人間の情報処理システムは、外から入ってきた情報を、耳や目などの感覚器で知覚し、認知する、これを「入力過程」という。そして認知したものを過去の知識や経験に照らし合わせて判断し、意思決定を行う、これを「媒介過程」という。さらに意思決定した内容に基づき動作を計画し実行する、これを「出力過程」という。
3つのヒューマンエラーの内、入力過程で起きた入力エラー、媒介過程で起きた媒介エラーが「ミステイク」として表れ、それぞれが“情報伝達のミス” “認知・判断のミス”が原因となる。そしてその後の出力過程で起きた出力エラーは「スリップ」として表れ、“行動のミス”によるものである。また全体を通じてつい忘れてしまったことは「ラプス」として表れ、“忘却のミス”となる。

これらヒューマンエラーの原因となる4つのミスは、ヒューマンエラー対策を考える上で非常に大事な視点となる。なぜこのヒューマンエラーが起きたのか?その真因を掘り下げていくためには、人間の情報処理システムの過程において、どのミスが原因で発生したのかを考えることが非常に重要であり、これら4つのミスに照らし合わせていくことで、より実効性の高いヒューマンエラー対策が可能となるのである。

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