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2021.02.02

VUCA時代のものづくりに「AI」は何をもたらすのか

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VUCA時代のものづくりに「AI」は何をもたらすのか

Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)、これら4つの要因から、世界が極めて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表すキーワードが「VUCA」だ。想定外の事象が次々と発生する今後の時代では、事前にいくら入念なシミュレーションを行っても、環境変化を正確に予測することは困難であり、企業にはその都度柔軟に対応するための「企業変革力」(ダイナミック・ケイパビリティ)が求められる。しかし意志決定の対応スピードが遅れることは、企業の持続可能性を低下させることにつながるため、先進的な企業ではそのアシストを「AI」(Artificial Intelligence/人工知能)に任せる動きが進んでいるという。
AIという略語が生まれたのは1956年のことだが、データ量の増大、アルゴリズムの高度化、コンピューティング性能やストレージ技術の発展といった近年の動向により、AIは広く一般的に知られる言葉となった。そしてその普及が爆発的に進む契機となったのが「ディープラーニング」(深層学習)によるブレークスルーだ。従来の機械学習では人間が特徴量を定義し、予測や推論の精度を上げていたが、ディープラーニングを活用することで、学習データから自動で特徴量を抽出し、精度を向上させることが可能となったのだ。ディープラーニングが注目されるようになったのは2012年、コンピューターによる物体認識の精度を競う国際コンテストで、トロント大学のチームが写真データに写っている物体を特定する人工知能をディープラーニングで構成して優勝した頃からで、同年にGoogleがディープラーニングで構成された人工知能にYouTubeの画像を見せ続け学習させた結果、猫の画像を猫と認識できるようになった、と発表したことも大きなきっかけとなった。これ以降画像処理におけるディープラーニングの有用性は世界的に認知され、その普及が急速に進んだことで、AIの性能は劇的に進化し、その期待値は一気に高まった。

これらの結果は製造業において特に食品系の会社で注目されている。例えばポテトチップスの中に針金が混入していたという状況は、ブランド商品を保有し、エンドユーザーに近い食品会社にとっては死活問題であり、これまで食品会社では、異物混入などの品質問題への対応として、経験値の高い従業員による、人の目での検査を最終の防衛ラインとしてきた。ただこの対応は属人性が高く、職人技的な技能を持った従業員がやめてしまうと、とたんにリスクが向上してしまうことに経営的な課題があった。しかし現在この課題は、ディープラーニングで学習したAIが入ったカメラを導入することでほぼ解消することができるようになっている。食品系の会社でAIの導入が早かったのはそういう事情からであり、保守的でAI導入のスピードが遅いと言われる日本企業においても、今後は様々な企業でのAIカメラの導入事例が徐々に増えていき、その精度、持続性への評価などが社会的に高まることで、いつのまにか検査工程の無人化が常識となる、そういう時代の到来は間近だと思われる。また製造業のAI活用において検査工程以外で期待されているのが「異常予測」の分野だ。現状では人による定期的なメンテナンスで、機械が急に壊れることがないようにしている作業が、AIによって異常予測ができるようになれば、これまでメンテナンスにかかっていた膨大なコストを減らすことができる可能性があり、経営課題に対する大きな貢献が見込める。

人工知能とは人間の知的なふるまいの一部をソフトウェアにより人工的に再現したものであり、経験から学び、新たな入力に順応することで、人間が行うように柔軟にタスクを実行する。人間がものの特徴、概念を視覚的に認知する場合は、言語化して捉えたものがベースとなるため、言語化した段階で、専門的な言い方では次元数がかなり減ってしまうが、一方AIは何故これが猫なのか、犬なのかという特徴を、定数でしっかり捉えているため、その特徴の計数をちょっと変えることで、ある犬の画像を別の犬の画像に変えてしまうような能力を持っている。人間ではわからない次元数で表現されている現象をAIは捉えることができるため、画像検知や予測に関して、人間ではできないことが可能となるのだ。
1983年公開の映画「ブレードランナー」は2019年の終末的世界で、限りなく人間に近いレプリカント(アンドロイドのようなもの)の存在が、人間とは何かを問いかけるテーマを持った作品だったが、人間とAIの関係性という視点では、AIやロボティックスの社会への普及により、今後10~20年以内に日本の労働人口の約49%の雇用が奪われるという予測もあり、必ずしもその未来は薔薇色であるとは言い切れないようだ。
また2012年のディープラーニングの爆発的な普及を契機に、現実味を持って議論されるようになった「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは、AIが人類の知能を超える転換点のことを意味し、一度でもそれが到来すると、自律的に自身を強化し続けようとする機械的な知性が出現することで、決して後戻りできない超加速度的な技術の進歩を引き起こし、人間が築き上げた文明に計り知れない変化(これまでの人類の進化をゼロにしてしまうほどの)をもたらすことになるという。映画で描かれたような人智を超えた存在と共存する世界が近い将来現実のものになるのかもしれない。

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