コラム/海外レポート

2021.01.26

脱炭素化社会を目指して

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昨年の夏、シベリアでは38℃という史上最高の異常高温を記録した。数年前から問題になっている永久凍土の溶解。そこから古代のウイルスが発見されたり、炭素菌が流出する危険性などが指摘されている。もうずいぶん昔の話になるが小松左京原作の「復活の日」という映画が公開された。原作は1964年の高度成長期に書かれた作品だが、未知のウイルスにより人類が絶滅の危機に瀕するというショッキングなストーリーは今にも通じるものがある。
酷暑や集中豪雨などの異常気象、そして新型コロナ感染症の拡大。近年、世界的な規模で発生する自然災害の背景には地球温暖化が絡んでいるといわれる。
たとえば地球温暖化で上昇した海水温は急激な気候変動の原因となる。もともと加熱した地球を冷却する海水がすでにオーバーヒートした状態なのだ。海流の変化は漁獲量にも大きな影響を与える。東京湾に熱帯魚が泳ぎ、熱帯ではサンゴ礁が高温で死滅する。
また一方で、地球温暖化に伴う自然環境の破壊が感染症の拡大にも大きく関係している。
世界で発生する感染症の70%は動物に由来する。スタンフォード大学の調査によれば、森林破壊が10%増えるとマラリア患者が3.3%増加するという。自然の生態系のバランスが崩れ、捕食者がいなくなると伝染病を媒介する小動物が増えるからである。このように地球温暖化は自然災害や感染症流行の隠れた要因として潜んでいるのである。

フィリピン・ミンダナオ島、多国籍企業が経営するバナナのプランテーションでは労働問題が発生している。農薬の空中散布で健康面での問題や家畜が死ぬ等の被害が出ているためだ。地球温暖化は自然環境だけでなく、貧富の格差や経済的な側面にも影響を及ぼしている。

農耕の開始から、都市化、工業化へと人類は地球の環境を大きく改変してきた。熱帯雨林を切り開いて生産される穀物や油脂。森林伐採や焼畑農業は多様な生物を育む自然環境を破壊している。
そこで世界的な地球温暖化抑制の枠組みとして制定されたのが2015年に採択されたCOP21「パリ協定」である。産業革命前からの平均気温の上昇を1.5~2.0℃未満にするために、今世紀後半に温室効果ガス排出量をゼロにすることを目指している。温室効果ガスとは、二酸化炭素、メタン、代替フロンなど。これらが排出されることで地球を取り巻く自然環境が大きくバランスを崩しているのである。
1997年の「京都議定書」は先進国を対象としたものだったが、「パリ協定」には190ヵ国以上が参加している。18年間という時間の中で、地球温暖化が世界的により深刻な問題となっていることがわかる。バイデン大統領もいち早く「パリ協定」復帰を表明したが、日本では2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度の基準から26%削減する目標を掲げている。

地中海が大西洋に流れ込むジブラルタル海峡。古代ローマ神話では、ここにはヘラクレスの柱と呼ばれる門柱があり、こう書かれていたそうだ。 ノン・プルス・ウルトラ―これはラテン語で「この先に進むなかれ」という意味だ。
古代の人々にとって世界は平面であった。それは巨大な水盤のようなものであり、世界の果てに近づきすぎると奈落の底に流れ落ちてしまうのである。
繁栄を誇ったが物質文明に走って滅亡した都市、アトランティスはその門を越えた大西洋に存在したといわれている。
世界はグローバル化しているといわれるが、実は我々は狭い世界しか見ていない。長期的な視点で大きな流れを読み解く力がないと現状は変えられないのではないだろうか。