コラム/海外レポート

2010.01.22

ものづくりはひとづくり

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執筆者:

橋間 伸介

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
加速する製造業の海外進出

今、日本の製造業は海外進出を加速させている。安価な労働力を求めた時代から、縮小均衡する国内市場に対し、急速な発展を見せる東南アジア市場をマーケットとして捉えた海外進出が主流となっている。経済産業省の調査によれば、アジアにおける日本企業の現地法人数は、1997年度の3,621社から2000年度には5,757社までに増加しており、その現地法人の販売先では、日本への輸出は97年の25%から07年度は19.1%に留まるのに対し、現地販売数の割合が56.5%とこの10年で6.5ポイントも上昇し、特に近年の上昇率は著しい。
ものづくり企業のアジア地域への生産拠点展開はアジア地域の経済急成長にマーケットを取り込む意味合いが急速に強くなっているのである。
弊社では、1997年より日本企業の海外工場の支援を開始し、今日では、中国、タイ、台湾、ベトナム、インドネシア、マレーシア、北米等、延べ50社におよぶ企業で支援を進めさせていただいているが、こうした状況を受けて、過去10年間でコンサルティングテーマも「安い人件費の活用」から「現地販売を目的とする市場開拓」また「第三国への輸出拠点」へと、従来の単一的なコストダウンテーマからローカル化・現地化を一層進めるものに変わりつつある。

日本人管理者(スタッフ)の抱える問題

今回は、この紙面を借りて、ローカル化に向けたポイントを整理していくことにしたい。
現地のローカル化、重要なテーマである。この課題解決に取り組むには、「日本人スタッフの育成」は必要不可欠である。多くのメーカーは90年のバブル崩壊以降、工場統合・閉鎖など、ものづくりの現場が縮小するなか、多くの「現場」を知る優秀な人材が少なくなり、また、バブル期には、現場重視の考えから、管理中心の考えに至り、真の現場を知る人材が少なくなってしまった。
ここでの現場を知る人材とは、ものづくりにおいて重要な個有技術という方向だけでなく、品質管理の考え方や進め方や動機付け、人の扱い方など、真のマネジメントを熟知した人財を意味するが、取り引き先に追従した海外進出などの場合、人材不足の問題から、ややもすると国内での扱いに苦慮している役職定年者、やっかい者を海外工場の管理者として送り込んでいる事例も少なからずあると聞く。
国内では現業の職長・主任が海外では部長・工場長の役職を担うとすれば、ゼネラルな改善経験を有していない中でのローカル化は困難の限りである。ゼネラルな業務経験の不足から、業務の指示は単一的な命令型になり、ローカルスタッフとの相互コミュニケーションが欠落し、悪循環に陥って入ってしまっている例を多く見てきた。
ローカル化は人事戦略であり、進めるにあたり日本人スタッフの育成とローカルスタッフの育成は切っても切り離せない車の両輪であると言える。もう一つは、先ほど述べた空洞化する日本国内で、スタッフを育成する機会が少なくなった
状態において、海外工場はスタッフを育成する重要な場として認識することも必要であろう。前述した視点から、日本人管理者の抱える問題点を列記すれば次のようになる。
①改善スキルの不足
②リーダーシップ力が弱い
●目的と手段を明確にし、部下に伝える力が弱い。
●現場の事実をしっかりと掴み、その事実に対して指導・アドバイスする力が弱い。
③形だけのPDCA管理
●プランの内容が一部の人にしか伝わっていない。
●D(実施)後のチェツクが甘い。
④コミュニケーション不足
●言葉の問題もあるが、情報の垂れ流しで終わっている。
⑤ものづくりの経験不足者が多い(若年層)

生活文化の違いを理解する

ローカルスタッフにも種々の問題があるが、まずは東南アジアの人々とのコミュニケーションについて理解することが大切だ。日本人から見て、東南アジアの人々に対する印象はどうかというと「判ったのかと聞けば、判っていなくても必ず判ったと答える」「先の事は考えず、その場その場の行動が多い」といった意見を聞くことが多く、ローカルスタッフに対する日本人管理者のグチとしては次のようなものが多い。
●言った事しかしない。
●思うように動かない。
●やるのが遅い。
●応用が利かない。
●報連相がない。
●部下に対しての指示があいまい。
●自分の失敗を認めようとしない。
●目的意識、納期意識(時間感覚)が希薄。
なぜ、彼らは場当たり的な対応を取るのであろうか。その根底には、生活文化の違いがある。それは能力の問題ではなく、むしろ祖先から伝わった生活習慣や環境によるものなのである。例えば、衣料品はショートパンツとTシャッで十分(四季がなく、先の事は考える必要がない)。家も材木とバナナなどの木の葉で作れる。食べ物も誰が取っても良いバナナはあるし、一歩外にでれば野生の鶏もいる。すなわち「衣食住」特段困った問題は起きない状態である。お金がなくても直ぐに死ぬことはなく、宗教上(仏教、イスラム教など)上位者が下位者への施しを徳とする風習があり、何にもしなくても生きて行くには困らない環境が影響しているのだ。

ことばの問題をどう乗り越えるか

先ほどの生活環境以外に、もう一つ大事な問題がある。お気付きの通り「言葉」の問題である。通訳を通じた会話では日本語から現地語に変わる過程で2つのフィルターがかかってしまう。一つは、通訳の日本語の理解度で伝わる内容が80%、二つ目は工業用語の理解度で80%、結果、80%×80%で64%しか伝わらないという事態となる。この状況で判ったと聞けば、判ったと答えられても伝わっていないのが現実である。
ならばどうするか、答えは簡単である。根気よく、繰り返す事である。我々の経験からは、最低でも3日は繰り返す必要があると思っている。結果として、「ローカルに任せていては、うまくいかない、育成するのも疲れてきた。仕方が無いから日本人でなんとか対応してしまう」というと、ますます負のスパイラルに陥って行く事になる。

どうすれば動くか

ローカルスタッフは、組織上の上司というだけでは場当たり的な対応を取ることが多い。しかし、自分たちにない問題解決や改善の能力を目のあたりにすると急に態度が変わってくるものだ。つまり、彼らは上司の実力に伴う尊厳の有無を評価しているのである。だから、改善力の弱い日本人スタッフのことは真剣に聞かず、動かない傾向にある。
東南アジアでは、生活習慣や宗教上の問題により、成果主義による評価を中心とした欧米型のビジネス文化が十分に浸透していないが、一方で日本型経営スタイルが再び注目の兆しを見せている。言葉の問題と生活環境を理解すれば、状況対応で柔軟性があり、全員一丸となって取り組む日本型経営こそ、ローカルスタッフをまとめる求心力となるのではないか。東南アジアにおいて「日本型経営システムはとっても有効に機能する」といえる。この様な背景から、冒頭で述べたように、ローカル化に向けて日本人スタッフの養成が重要であることを理解していただけたと思う。

ローカル人材育成の基本姿勢とは

東南アジアで人材育成を進める際、日本人の基本姿勢として3つの考えを持つことである。
1. 性善主義(マクレガーのXY理論は人類共通で当てはまる)
東南アジアの人々にも「改善能力」「管理能力」はあると信じることであり、満足できないのは環境から、祖先から学んだ行動パターンと理解することである。
2. 制約と恐怖感の排除
怒られたことがない、人前で怒られることをもっとも嫌う。ここからくると思われる行動として、こんなことを言ったら「怒られる」「反対される」「失敗したら怒られると同時に部下への尊厳がなくなる」「説明を求められると答えられないかも知れない」と行動の前に考えてしまう傾向が強いのである。
3. 三割主義
先祖からの行動パターンであることを前提として考えれば、すべてにおいて100%は、いや60%の成功も難しいと考えてもおかしくない。すなわち、30%、三割上手くいけば十分と考え、失敗を恐れず実行させることである。
2と3のいずれも共通する点は、自由に考え、改善を実施できる環境を整備することにほかならない。この環境づくりにテクノ経営の独自手法VPMの考え方が日本だけでなく、海外でも大きな成果を生み、ローカル化を進める手段として有効に役立つと考えてよい。人間、環境、歴史が違っても、成功体験をシステマチックに積み重ねることが意識を変え、行動が考働に変わるのである。自分が「他の人から必要とされている」と認識させていくことにほかならないのである。

ローカル人材育成の効果

最後に09年1月の経済産業省調査によると、工場長のローカル化の効果として興味のある結果がでている。(図-1)
ローカル人材も責任のある職務に積極的に登用する効果は高いのである。もう一つの調査結果として、製造部門を現地化する上での課題を紹介してまとめとする。(図-2)
これらの調査結果から技術や技能の伝承以前に日本のものづくりの考え方をいかに伝承するかという点が重視されていることがわかる。特に上位4項目の課題については、ローカル化を目的と考え、生産性向上を手段として進めることが最も良い方法であると言える。いずれについても、座学では習得は不可能であり、生産性向上のための改善活動を通してOJTを繰返し行う必要がある。そして、仕組みを改善し、日本人スタッフの率先垂範でローカル人材にも権限を持たせることが必要である。
このことから必然的に日本人スタッフのスキルの再点検が必要であり、項目1から4は海外工場に限らず、近年の日本での課題と一致するのである。