コラム/海外レポート

2011.08.01

海外工場の改善ポイントⅠ 海外工場の特徴

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執筆者:

井原 昌志

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
はじめに

近年、ものづくり企業の海外進出が盛んです。そんなグローバル化の波を受けて、私自身もコンサルタントとして東南アジアや中国・台湾などの工場にお伺いする機会が多くなってきました。
そんな経験をもとに、これから数回にわたって海外工場における改善活動のポイントをお伝えしていきたいと思います。

● コンサルの眼で見た海外工場の印象

初回は、海外工場の改善を進めるうえで、知っておくべき基本的な海外工場の特徴についてご説明したいと思います。
まず、東南アジアや中国などの日系の海外工場を訪問しての印象は、暗いという一言に尽きます。暗いといっても照明のことではありません。工場で働く従業員の皆さんが暗いのです。こちらから声をかけても反応が鈍く、あまり活気が感じられません。ミーティングの場でも、積極的な発言は少なく、黙ってうつむいている人が大半です。また、個人を指名して発言を求めても「何も問題はない!」という返事しかかえってこない。これが中国の場合なら「没問題(メイ・ウェン・ティ)」という言葉が返ってきます。

● 異文化マネジメントの問題

なぜ海外工場の雰囲気が暗いのでしょうか。私は、日本人管理者の異文化マネジメントの不味さに原因があると思います。
1990年代以降、ASEANなどに対する日系製造業の海外進出が本格化。当初は生産コスト低減のための海外進出が主流でした。日本と比べて安価な労働力がいくらでも手に入る。言い方は悪いですが、現地の従業員に対する扱いも、代替の利く機械や部品のような感覚で捉えられていたのではないでしょうか。
しかし、現在、アジア市場は需要拡大で世界的に注目される存在です。それに伴い現地従業員の労働コストも上昇傾向にあります。製造業の海外シフトの目的も一大消費地としてのアジアを意識したものに変化してきたのです。
ところが、管見の限り、日本人の異文化に対する理解は極めて遅れています。私たち日本人は、海に囲まれた島国に住んでおり、方言や地方の特色はあるにしろ、同じようなアイデンティティで生きています。そして、単一民族ゆえ、以心伝心というように声に出さなくとも伝わる場の空気というものがあります。一時、KY(空気が読めない)という言葉が流行りましたが、これも日本社会ならではの事例だと思います。しかし、海外工場で働く従業員の多くはローカルスタッフなので、日本人のアイデンティティは通用しません。まず従業員の国民性や生活習慣、文化風土の違いを理解することが大切です。 「そんなことは言われなくてもわかっている」という人がいますが、そういう日本人の管理者ほどローカルスタッフの指導育成に頭を悩ませていることが多いものです。

● ローカルスタッフの感覚を理解する

ローカルスタッフは、最初から日本人と同じ感覚では仕事ができません。
これからの連載を通じてお話していく予定ですが、整理・整頓といった基本的なことでも、彼らの感覚は一様にルーズです。これは国民性の違いなのでしかたがありません。そこで、まず彼らに対して「なぜ、そうしなければならないのか」を理解させることが必要になってくるわけです。そして、これが異文化マネジメントの第一歩なのです。
しかし、多くの日本人管理者は国内と同じ感覚でローカルスタッフを捉えてしまいます。そこで、何か問題が起こると、頭ごなしに現地従業員を叱る。また、改善提案なども、発言者が責任追及され、言い出しっぺが損をする結末となるわけです。
上からガンカン怒鳴られるのでは萎縮するのは当然です。これが国内ならパワハラで訴えられるのではないでしょうか。
ローカルスタッフの彼らにすれば、余計な発言を控え、目立たないことが一番と考えるのは至極当然な事だと思います。 ローカルスタッフとの感覚の違いを少しだけお話しましょう。例えば、日本人は時間の観念が極めて厳格な民族です。鉄道などは秒の単位で運行管理されている水準ですし、新幹線など数分遅れただけで延着のお詫びがアナウンスされる状況です。しかし、交通インフラが未発達なアジアの国や地域ではどうでしょうか。いつ来るかわからない鉄道やバスを待っているのですから、待ち合わせ時間に遅れるのは当たり前です。こういった日常生活の違いから国民の感覚が形成されていくのだと思います。
以上、海外工場の特徴というテーマでお話しました。
次回は、海外工場の問題点とその背景についてというテーマで、今回お話した異文化マネジメントについて、さらに踏み込んでご説明する予定です。

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