コラム/海外レポート

2011.10.18

海外工場の体質強化策~人の成長を企業の成長・発展に結びつける~

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  • 海外工場

執筆者:

井原 昌志

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
人間通になる必要性

最近では日本人の若者も気軽に海外へ語学留学に出かけるようになりました。留学先もちかごろでは、欧米よりも近いアジアの国々に人気が集まっているようです。明治維新により欧米型の近代国家を建設してきた日本ですが、その文化のルーツは中国を中心とするアジアにあります。そういった意味でアジア諸国の生活文化に対するノスタルジックな想いが呼び起こされているのかもしれません。ところが、海外の留学先でも日本人同士で交流するばかりで、現地人との接触が苦手な学生も多いと聞きます。我々の島国根性は現在の若者にもしっかりと受け継がれているようです。
ものづくり企業においても海外進出が盛んです。特にタイやベトナムなどの東南アジアに向けた工場建設が増えています。そこで問題になってくるのがローカル社員の管理という仕事です。海外工場が立ち上がると日本人の管理職が派遣されます。そして、ローカル社員の採用・教育、労務管理等を行っていくわけです。しかし、ここで一つの問題が発生します。それが先ほどの日本人の島国根性の傾向です。言語が通じないもどかしさもありますが、やはり日本人だけで固まってしまう。そして、現地の生活文化から距離をおいてローカル社員と対峙する姿勢。ここに少し問題があるようです。
人はもっとも大切な経営資源であるという大原則。これは海外工場においても変わりません。帰属意識が薄く、離職率の高いローカル社員など『単なる使用人である』という考えが根底にあれば海外工場の発展・成長は望めません。現地に溶け込み、異文化を理解することを心がけ、ローカル社員との人間的な交流の場を持つことが必要です。

間違ったマネジメントを改める

海外工場においては、指示・命令だけで人を動かすことは難しい。そこでは日本の常識はまず通用しないものと考えてください。ローカル社員にはものづくりの基本である整理・整頓という概念は最初からありません。また、時間感覚も極めてルーズといえるでしょう。これらは現地社会のおおらかな生活習慣に起因するものです。
工場管理に追われる立場としては、彼らを上手く動かして生産計画を進めなければなりません。そこで何か問題が起こると、日本的感覚でいきおい怒鳴り散らすことになります。しかし、ローカル社員を頭ごなしに叱ることはマイナス効果以外の何物でもありませんし、改善活動などで発表者が責任追及されるのでは誰しも発言を控えるようになるものです。
ローカル社員に対しては、日本では常識的と思われるようなことから根気よく教えていくことが必要です。具体的には、正しいポスター掲示、時計の合わせ方、清掃方法などの約束事を理解してもらうことから始めます。そして、発言に対して決して怒らず、彼らとのコミュニケーションを大切にしていくことです。自分の意見を述べても怒られない環境、言いだしっぺが損をしないということが理解できればローカル社員の中からも積極性が生まれてくるものです。

対話を通じて人を動かす

人を理解、納得させて動かすには、『信頼』『論理』『損得勘定』の3つのバランスが大切です。その為にも対話力が重要となってきます。最近ではメールでのやり取りが多くなってきました。しかし、一方通行のメールは対話とはいえません。対話とは相手と面と向かって行うコミュニケーションです。例えば「なぜ整理・整頓が必要なのか」とか「時計や表示物が不正確だと何が困るのか」といった理由を相手に考えさせること。そのために必要な能力が相手の立場を尊重しながら話す力、すなわち対話力なのです。換言すれば対話とは相手との交流力です。対話力は管理者やリーダーに求められる必要能力の一つです。
トップ方針を自分の声で部下に伝え、理解・納得させて人を動かす力をつけることが大切です。何事も場数が重要です。いくら本を読んでもスピーチは上達しません。やはり場数をこなすことで話がうまくなるのです。絶対にローカル社員との対話を面倒がってはいけない、私はこのことを常々申し上げています。

改善活動のプロセスで人を育てる

ローカル社員のレベルアップをはかるには、「考えて仕事をする場面」をつくることが必要です。
ブレーンストーミングには批判禁止という条件があります。ネガティブな意見により創造的なアイデアの芽を摘まないためです。先ほど、自由な発言ができる環境づくりの必要性を申し上げました。ローカル社員の改善活動でも批判されなければ、現場で起きている生々しい問題が出てきます。自分や仲間との関係からどう解決すればよいかを考えさせること。そして、最初は小さな一歩かも知れませんが、自分の考えが受け入れられたという経験がローカル社員の意識を変えていきます。
どこの国の人でもほめられれば嬉しい。これは万国共通の原則。ここを間違わなければ、国籍・年齢・性別を超えて心の交流ができると私は信じます。
ほめたあとに不足部分をフォローする。メンバーを「やってやろう」という気持ちにどうやって持っていくか、ティーチングよりコーチングが大切です。活動のプロセスそのものが人を育成する場面です。「ほめて育てる人づくり」が一番重要なのです。

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