コラム/海外レポート

2012.06.01

ものづくりチームのつくり方

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  • 現場改革・生産性向上
  • その他分野

執筆者:

佐竹 陽一

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
はじめに

2011年3月11日午後2時46分に東北三陸沖を震源とする巨大地震が東北・関東を襲いました。地震だけでなく、大津波と原発事故を伴ったもので、「東北の工場が被災し、基幹部品が作れなくなってしまったことにより、世界中で自動車や家電などあらゆるものが作れなくなった」そういう状態が世界中で起きました。東北の製造業がいかに世界の経済にとって重要な位置を占めていたかが、図らずも明らになった出来事でした。当日私は、岩手県でコンサルティング活動をしており、交通手段が寸断され、自宅のある山形に帰宅したのは3日後でした。帰宅するバスの中で、家屋倒壊や新幹線架橋の崩落などの惨状を見て、復興するのに何年かかるのかと悲痛な思いを持ったことを思い出します。しかしながら、震災から1年以上たち、少しずつではありますが回復のきざしが見えてきました。

ものづくりと東北人気質

今回の震災において、援助物資や飲料水をもらうのに取り合いもなく、黙々と配給の列にならび、物品の略奪もほとんど起きないことなど被災者の我慢強さや粘り強さに、欧米だけでなく中国からも賞賛の声が上がりました。本来日本人が持ち合わせた美徳を脈々と受け継いだ東北人の美点が現れた結果だと思います。反面、物静かで自分から意見を言わない、保守的で閉鎖的な面も持ち合わせていることも事実です。ものづくりの観点で見ると、80年代までの「少品種大量生
産」では、ひとつのものを、こつこつと実直に作り続け、少しずつ改善を積み重ねる東北人の気質が当時のものづくりのトレンドにマッチしていたと思われます。しかし、消費者の嗜好も変わり、「多品種少量変量生産」や生産の海外シフトなどの変化にうまく対応できなくなってきています。しかしながら決してすべての企業が出来ないわけではありません。東北の企業が変化に対応している事例をたくさん見ています。東北人は、始動は遅いかもしれませんが、一旦腹に落ちれば、行動に向けて非常に大きなパワーを粘り強くかけていきます。東北人気質と東北の企業を通して成功するものづくりチームとは何かを考えてみたいと思います。

チームづくり(成功の循環)で考える

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は、人間関係の質が高まると、会話や対話を通じてアイディアが生まれ、それに伴って行動の質が高まり、結果の質につながるという「組織の成功循環モデル」を発表しています。東北の人は寡黙です。いかにして発言させるか、引きだすか。発言しやすい場を作ってあげるかが重要になります。具体的には、発言しやすいように、アイスブレイク※を入れ、場を和ませたり、ポストイットに意見をひとりひとり書いてもらい、グ
ループでまとめ発表するなどの工夫をすることにより、チームとしての一体感が少しずつ出てきます。成功の循環で一番大事な点および起点は、「人間関係」つまり関係の質です。目標目的を共有できるか、チームになれるかが成功のポイントになります。それにより、いろんな気づきが生まれ、その気づきによる問題・課題を整理することにより思考の質も高まります。更に目標や行動計画を皆で合意して実行することにより行動の質が向上し、その結果を皆で見えるようにして分かち合うことが出来るようになれば結果の質も上がってきます。東北の場合、寡黙で人見知りの傾向が強い分時間はかかります。しかしこの気質は私たち日本人に少なからずある性質です。
人はそれぞれのなかに大きな力を持っています。しかし、その力を組織が十分に引き出しているかといえば疑問です。気質(寡黙、恥ずかしさ)や会社の風土(上意下達、発言できない雰囲気)や人間関係(上司と部下、仲間との関係)などチームとしてのまとまりを阻害している要因は多々あります。そんななか、いかにチームとして力を引き出すか。成功する為の重要な要素です。

(1)場をつくり、チームにする(関係の質)
(2)問題・課題を整理する(思考の質)
(3)合意形成し実行する(行動の質)
(4)結果を分かち合う(結果の質)

場をつくり、チームにする(関係の質)を高めることから始める

企業が事業戦略を立てて、実行し、結果を確認するという過程や、経営計画から部門目標、個人目標に落としていく目標管理制度では、図でいう「行動の質」→「結果の質」に焦点が当たり過ぎて、「やったか?」→「どうなった?」が話の中心となってしまいます。その結果、「発言してもしょうがない」「結果だけ出せばいいんでしょう」「結果が出でなかったらどうなるの?」など不平、不満や不安が蔓延することになります。まず土台に当たる「関係の質」を高めることで、コミニケーションが深まり、最終的に結果の質の向上につながっていきます。
先が見えない時代だからこそ、組織・社員が大きく変わる為に、変革の場をつくることから始める生産革新活動や業務革新活動などを早急に行う必要があるのではないでしょうか。

おわりに

私たちの活動が東北の復興に、更に日本のものづくり復活の一助になれば幸いです。

※アイスブレイク 会議やセミナー、ワークショップなどの前に、参加者の抵抗感をなくし、場が進む雰囲気づくりをするグループワーク。