コラム/海外レポート

2012.07.15

成功する改革と失敗する改革(3)

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執筆者:

小久保 和孝

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
第3回 改革し、成長していく目指すべき活動の姿

先回は、期待以上の成果がでる活動の条件について解説した。活動目的の共有化が活動成功の前提条件であることがご理解いただけたかと思う。 活動成功のためには真の活動目的が経営陣を通じて適正に伝達されなければならない。そして、その役割を荷うのが推進リーダーの役割であることを説明した。
それでは、真の目的を受けて改革を続けるにはどのようなスタンスを維持することが必要なのだろうか。
今回は、継続・発展する改革を続けるための姿勢と考え方を事例を含めて紹介したい。

3.改革し、成長していく目指すべき活動の姿
(1)企業が存続していくかぎり「課題」が尽きる事はない。

これまで私が担当したクライアント企業の中で、F社は最も長くお付き合いをさせていただいた企業である。数年間の企業改革により、生産性は2倍になり、リードタイムは1/3に短縮され、 従業員の少数精鋭化が真の意味で実現した。モノ作りの直接部門のみならず、設計開発、調達、営業、協力会社まで活動は広がり、企業がトップシェアを維持・発展成長していくための磐石の 組織が構築されてきた。
しかし、これに甘んじず、F社の経営トップは改革の手を抜かなかった。毎期、これからの将来を展望し、休む間を与えず活動組織に課題をぶつけ、また組織は活動を通じて確実にその課題を 克服していった。私は、この経営トップの姿勢こそ、成功する改革を続ける秘訣ではないかと感じている。
そんな折、「小久保さん、これまでの取り組みでわが社はかなりパワフルになったと思うが、2020年を眺めた時、このままでは競争劣位になる事が予測される」と、F社トップからある日の 午後の面談で申し渡された。それは、2020年の姿として、もっとパワフルな競争優位の企業になる必要があるという強い想いからであった。
確かに、工場は高水準のモノ作りが実現できてきたが、実はまだ営業が工場に対して遠慮する傾向がある。F社の成長以上にビジネス環境は急激に変化しており、販売の前線ではユーザーからの 今までにない高度な要求がどんどん現れている。ところが、工場では営業が作った市場要求に対する「遠慮の傘に守られている」というのだ。しかし、近い将来、その傘を外し、工場としては これまでタブーとされていた営業の遠慮を取り払い、市場の要求を全て受け入れることが必要になる。例えば、見た事も聞いた事も経験した事もない短納期で、初めて作る製品を量産品と同様の コスト水準で作る必要性がでてくるのだという。

そして、そのためにはこれまでの華々しい成功体験をあえて破棄しなければならない。モノづくりの進化に向けて、これまで確実に成果を創出してきた方法論をいったん放棄して、ゼロベースで 考えていかねばならない。今、F社における新しい価値観を創出する活動が熱く、強力に推し進められている。

(2)企業の課題を多角的に捉え、全方位で克服を行う。

G社には多くの事業部があるが、最初はある一つの事業部から改革の活動が開始された。しかし、期を追う毎に参画する事業部が増え、3年目には全ての事業部で活動が開始されることになった。 テクノ経営では、この一連の活動を支援させていただいたが、これは活動の多角化として理想的な形である。
最初に活動を開始した事業部がG社改革活動のパイオニア部門である。後に続く事業部は水平展開のPDCAを回しながら、踏襲すべき箇所は踏襲し、改めるべきは改める事ができる。 自部門に合わせた活動のカスタマイズ化。それは、借り物のスーツを自らの体型に合わせて補正する作業に等しい。そのためには、各事業部の目標と戦略が明確になっている事が肝要だ。
私自身がG社における最初の事業部活動で留意した事を述べたいと思う。それは、少しイレギュラーな進め方だったかもしれない。というのは、通常ならば、常にトップの意向を受け、 その示す方向に最速・最適に進めていくことがコンサルタントの定石である。しかし、G社においてはあえてそのスタイルを変えてみたのである。活動母体であるメンバーはかなり優れた資質を 持っていると判断した私は、活動組織に対して矢継ぎ早に課題を投げかけた。それは市場の変化に対して事業部が感じるギャップであり、市場が期待する事業部の意義でもある。 そして、その結果、たちまち組織に変化が現れた。部門や個人としての存在意義を語るメンバー、社を憂い、将来を構想するメンバーが増え、一歩一歩ではあるが確実に職場が変わってきたのである。

その変化にまず驚いたのはトップだった。そして、コンサルタントに意見を求めながら、今後の可能性を探り、組織を方向付けていく。 コンサルタントはその一歩先で活動の動機付けをはかる。まさしくスパイラルアップの良循環である。勿論、それほど簡単には行かないし、課題も大きく難しい場合が多いのが実情ではある。 しかし、成せば何とかなるものだ。
こうした良いスパイラルが描けると、企業の強みや持ち味が発揮されてくる。そして、継続的な取り組みにより改善レベルは飛躍的に向上する。事業部間の温度差は解消され始め、 良い意味での競争意欲が湧いてくる。また、各事業部の問題解決を通じて、企業全体として多角的な解決行動の取れる魅力的な組織体に変化して行く。問題やトラブルが発生すると、 組織に割り付けられることがどうしても多くなる。しかし、G社で問題が発生すると、「私が遂行します」と、先を争いながら皆が競って手を挙げる。結果として課題解決は極めて迅速に行われ、 企業にある最適な経営資源が投下されていく。
私はクライアント企業における継続的な取り組みの中で、常に4つのディメンジョンをもって組織の成長を推し量るようにしている。それは、企画力・技術力・遂行力・組織力である。

一番重視すべきは企画力かもしれない。組織内の行動原理や価値観、常識にとらわれすぎない事が大切だ。市場は絶えず変化している。政治経済などのマクロ的な動向や業態、 ビジネス環境のミクロ的な動向などをいち早く嗅ぎ取り、自らで自らのパラダイムを大きくシフトさせていく事が要求されるからだ。
是非、各企業において現在の取り組みがどう変化、成長しているかを4つのディメンジョンで評価してほしい。組織を強化させていく手がかりがそこにある。

活動を成功させ、改革を果たす。勿論、それが卒業ではない。企業が存続するかぎり、課題は次から次へと現れる。一瞬でも課題克服の努力を怠れば、 市場との間に埋めようの無いギャップが発生し、気付いた時にはもう遅い。活動は成長していかねばならない。現状をきちんと維持する力を蓄え、更には管理者が中心と なって新しい水準を設定し、それがどれ程の高みであろうとも組織はその頂に立たねばならない。
例えるならば、複葉機の延長線上にジェットエンジンが生まれたわけでは無いだろうし、蒸気機関車の延長線上にリニアモーターが開発されたわけでは無いように思う。 支配的になり易い延長線上からの発想や、陥りやすい安住意識から訣別させていく方向付けが大切だ。
現在、活動の推進をされている責任者の方々は、どうかメンバーのモチベーションを高め続けていただきたい。

厳しい活動の取り組みは、企業において新しい価値観が創出される夜明け前の暗さとして踏ん張りたい。多忙を極める業務の中では常にビジョンを確認したい。 論じて行わずではいけない、意思決定のストライクゾーンを70%と決めて、迅速に行動していきたい。我々は無限の可能性を秘めているのだと、全組織が言い放ちたい。 活動は動き出したら最後で、けっして止めるべきではない。改善には歯止めがなく、唯一歯止めと言えることは、「活動を続ける」事だと思う。
企業トップが経営ビジョンを描くとき、「この活動が何よりも頼りになる」と言わしめる姿、本当に美しいと思うし、そういう活動にまで継続的に努力・ 成長されてこられたことに最大の敬意を払いたい。
次回以降は、失敗しないためのコンサルタントの使い方を述べたいと思います。
ここまで、お読みいただき本当にありがとうございました。

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