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2026.09.17

経営が現場を知らないとき、何が起きているか

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執筆者:

山本 知秀

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経営が現場を知らないとき、何が起きているか

工場や支社を回っていると、「数字は熱心に見ているのに、現場はほとんど見ていない」経営者・管理者に、ときどき出会います。
生産性、不良率、残業時間、納期遅れ、人員数、受注残……。会議室やモニター内では、これらの数字を丁寧に見ています。まるで飛行機のコックピットにある計器のように。
一方、現場を歩くと「この会社は現場をまるでわかっていない」と感じることが、よくあります。なぜ、そうした事態が起きるのか。その結果としてどういった弊害が生まれるのかを、今回少し整理してみます。

●なぜ「数字だけで判断しようとする人」が生まれるのか。
まず、原因から見ると、数字偏重となる背景には、いくつかの典型パターンがあります。

1.現場との人間関係ができていない
現場に行っても、本音を話してくれる相手がいない。出てくるのは「当たり障りのない正しいこと」「怒られないためのこと」だけ。
そうなると「どうせ現場に行っても、本当のことは分からない」と感じ始める。
結果として、人の顔や声よりも、数字の方が“まだマシな情報源”に見えてくる。こうして、現場との距離が少しずつ広がる。

2.現場についての知識・経験がない
現場を見ても、どこが正常でどこが異常なのか分からない。激しい勢いで流れる膨大な人・モノ・設備・データといった情報量に圧倒され、何を見ればいいのか分からない。
すると、「現場を見に行く時間」は、本人にとっては「成果ゼロで自分の知識・経験のなさを突きつけられる厳しい時間」に感じられる。
「そんな辛い思いをする可能性があるならば、慣れている数字を見ていた方が効率的だ」。
そんな潜在心理から、知らない世界に足を踏み入れる不安や、今さら質問することへのためらいも加わって、心理的に数字を見ている方がはるかに楽な状態となる。

3.「数字こそ客観的・正しい」という過度な思い込み
「論理性」や「定量性」を重視する価値観の中で育ってくると、「数字で語れないものは信用すべきではない」という価値観に支配されがちとなる。もちろん、数字は大事な指標だ。ただ、「数字は結果であり、プロセスではない」という重要な考え方が抜け落ちると、数字がほぼ唯一の判断材料になってしまう。

●「数字だけで判断する」と、何が歪むのか
こうして「数字だけの管理・経営」が進むと、判断を誤る要素がいくつも積み上がっていきます。

1.数字は結果であり、真因を見誤る
数字は「結果」であって、「原因」そのものではありません。
生産性が落ちた。残業コストが増えた。不良率が上がった。売上が落ちた。利益が減った。
ここまでは数字で分かります。
しかし、その背後には、
• 段取り替えの頻度
• 人の配置
• 設備の癖
• やりにくい作業、見にくい情報
• 複雑で直感に反したルール
• 価格設定の属人性
• 他部署や特定顧客とのやりとり
など、複数の要因がとても複雑に絡んでいます。現場を見ずに数字だけで判断すると、
「教育が足りない」「人が足りない」「人を増やせ」「研修しろ」「QCサークルやれ」「もっと急いでやれ」「もっとデータ取れ」
といった“分かりやすい犯人もどき”へ飛びつくことに。
その結果、対症療法や作業だけが増え、作業そのものが目的化し、真因には手が届かない。挙句の果てには、現場の負荷だけが増えて、数字も余計に悪化してしまいます。

2.現場が「見せたい数字」を作り始める
評価が数字中心になるほど、現場は「数字を良く見せる」職人と化します。
• 都合の悪いデータを隠す
• 定義を都合よく解釈する
• 見栄えで誤魔化す
• 問題が出ても、報告を遅らせる/範囲を狭める
最悪の場合、偽装・改ざんに近い行為さえ起こりえます。
すると、「数字は良いのに、実態は悪い」という状態が生まれます。
経営側は数字を見て安心し、問題の発見と対応が大きく遅れる。
まずい事態が発覚したときには、手遅れに近い規模になっている。
数字偏重は、こうした典型的なリスクをもたらします。

3.「数字にまだ出ていない兆候」を見落とす
数字には、それが発生するタイミングと数字として認識するタイミングがあり、この二つの間に「タイムラグ」が存在します。
数字に表れ始める前の段階で、「現場のざわつき」「暗黙のルールの崩れ」「手戻りや段取りの乱れ」「治具や設備の不具合」「不公平感や不信感の蓄積」「キーマンの疲弊や離職の予兆」といった、現場でのみ感じる“五感レベルの初期症状”が現れます。
現場を見ていれば、少なくとも現場作業者の表情や、動き方などから、
「なんとなく雰囲気が変だ」「このままだと崩れるな」という感覚を持てることがあります。
しかし、数字だけを見ていると、これらの兆候をすべて見逃すことになります。
その結果、「急に悪くなった」「想定外のトラブルだった」と語られる事態が増える。
こうした現象の原因は、数字の外側に続いていたサインを見ようとしていなかった、ただそれだけのことなのです。

●真因は「現場との関係」と「現場を見る習慣」にある
問題の真因は「現場に行かないこと」そのものではなく、
• 現場との人間関係が薄い
• 現場を見ても分からない状態を放置している
• 数字だけを“安全地帯”にしている
という、経営・管理側の姿勢や習慣にあります。
現場を知ることは、「毎日張り付くこと」ではありません。
• 本音を聞ける人間関係をつくる
• 分からないことを分からないと素直に言い、教えてもらう
• 数字と現場の両方を見て、違和感がないかを確認する
• 違和感があれば、数字の取り方や評価の仕方を見直す
こうした当たり前のことを、当たり前にやるかどうか、です。

数字は必要です。数字を見なければ、経営は成り立ちません。ただし、数字は「全ての結果」にすぎません。数字を支配するのは、良くも悪くもその数字を作り出す現場のプロセスです。
• 数字を見て「おかしい」と感じる
• 現場を見て「なぜこうなっているのか」を考える
• 現場とよく話し「本当の要因」を探る
• その上で、数字と現場の両方に効く手を打つ
こうした順序をふまえず、「数字だけで結論を出す」状態が続く限り、意思決定は永久に歪み続けます。
経営が現場を知らない。現場を知ろうとしない。数字だけで判断しようとする。
その弊害は、一見するとじわじわと、しかしある時点から一気に表面化します。
だからこそ、「数字を見る」と同じくらいの熱量で、「現場を見る」「現場と関係をつくる」ことに時間を使う必要があるのだと思います。

以上のことに少しでも心当たりのある経営者・管理者の方は、「自分の中にある固定観念を壊しにいく」くらいのつもりで、一度現場に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

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