コラム/海外レポート

2017.03.06

「気づき提案」のススメ…「改善提案」ではない 「その理由」とは?

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執筆者:

手島 静雄

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。

団塊の世代の一斉退職により生産現場でのスキル消失やリーダーシップの弱体化が騒がれて久しいが、最近の企業から受ける依頼でそうした時流を感じるのが、次世代を担う若い世代を育成してほしいというものである。そのような依頼に対して小生が常に心がけていることが「改善活動を通じて、人を育てる」ということである。改善活動である限りは、当然のことながら経営成果としての数値成果を求められるわけであるが、今回は、敢えて「育てる」にこだわった改善活動の事例を紹介する。

「気づき提案」は提案件数を目標に設定する

先ずは、改善のテーマ等は設定せずに自分の身の回りにあるちょっとした違和感を増幅させて、それを「気づき」として活動メンバー全員に提案をしてもらう。提案件数の目標はひとりあたり1ヶ月に30件以上である。チームリーダーにはチーム全体の達成目標件数を指示する。30件×メンバー人員数である。1チームあたりのメンバーが5名であれば150件となる。ノルマを与えられたメンバーのほとんどは抵抗感を示すが、それとはお構いなしに、その場で個人の提案件数とチーム全体の提案件数を記録するグラフを作って渡してしまう。身の周りのどんなことでも提案の対象であり、改善を求めないわけだから提案のネタは無限である。
提案は、口頭で行うのでなく付箋紙に気づき内容と氏名を明記して、貼り出してもらうようにする。「○○が△△だから××だ」といった文章のひな形を示し、氏名を明記した上で、チーム単位で貼り出すようにして、1枚貼るごとに自分の提案件数実績グラフに色を塗ってもらうのだ。メンバーは提案するごとに自分のグラフを積み上げて、リーダーはそれを集計して、チーム全体目標のグラフを積み上げる。提案を開始して半月たったころに提案状況を確認すると、個々メンバーの提案状況にはばらつきがあるが、リーダー本人は、自分のノルマを達成させており、メンバーの提案状況に応じて一喜一憂している場合が多い。この時、リーダーがチーム全体の提案状況を憂いていたならば、仕掛けた側としては、しめたものである。こうした状況下で、各メンバーには、自分達のリーダーがチーム目標を達成するために各個人の目標必達を再要請し、リーダーには、その場で、チームの提案件数の目標達成を約束させるのである。

提案された「気づき」を分類する

最初の1ヶ月間は、提案件数の目標必達と提案された気づきの質にこだわるようにする。気付きの質とは、提案内容の行き着く先がどこに向かっているかということである。「設備が古いから○○に困る」等といった内容の提案が多くを占めている場合は、自分達の足元に目線を向けるよう喚起して、「自らの問題を捉えた気づき」を増やすことをおこなう。
提案件数の目標達成結果を確認して、全メンバーの提案が出揃ったら「気づき提案メモ」を一旦剥がして、提案者ごとにまとめておく。メンバー全員が集まる機会を設けて、提案された内容の行き着く先の違いによって以下の4つに層別する。

①自分達で手が打てる、すぐ対応できる提案
②対応したいが時間やお金がかかる提案
③対応するには会社の経営判断が必要となる提案
④却下する提案

提案を層別する際の進め方については、必ず小生が指示するようにしている。その手順は、リーダーが提案メモの内容を読み上げて、メンバー全員に①~④のどれに該当するかを尋ねると同時に提案メモを本人に渡す。提案者はメンバー全員の意見を集約して、その提案がどの区分に該当するか決定する。メンバー間で意見が分かれた場合は、リーダーがメンバー全体の意見を調整して決定する。提案を却下する場合は、リーダーが提案者に対してその理由を明確に説明する。最後の1枚までこのやり取りを繰り返すことで、全員の提案が共有され、それぞれ提案に対する方向性が意思統一されることになる。このプロセスには、コミュニケーションとリーダーシップを形成する要素が散りばめてある。また、この流れの中で、メンバー全員がそれぞれの気づきを問題と捉え、「改善」を意識して具体的イメージを膨らませることになるのである。

全員が主役となる改善計画を立てる

続いて「自分達で手が打てる、すぐ対応できる」に分類された気づき提案について改善方策を決める行動に移る。この際、リーダーはメンバーの適性や時間的負荷の状況を考慮しながら、自らの意志で「いつまでに、何を、誰が、どのよう対応する」か、メンバー全員に分担することを念頭に置いて問題点対策表に明記する。
ここで取り上る改善対象は、既に、リーダーの権限において遂行できる事柄のみに絞られている。作成した改善計画表をメンバー全員の前で発表し、実行にあたっての最終調整を経て改善計画を確定させる。これはリーダーの調整能力を養うプロセスであると言える。

改善計画の完遂を目標としてその進捗をフォローする

改善計画の日程に合わせて、各担当者にヒアリングを行ない、改善の進み具合、実施を阻害する要因の有無とその排除等、メンバーが改善を確実に遂行できるようリーダーがサポートすることを指示する。改善を完了させる期間は、改善へのモチベーションを維持するために1~2週間ぐらいに設定するのがよい。
メンバーが改善を実施している間に、先に層別した「対応したいが時間やお金がかかる」「対応するには会社の経営判断が必要となる」提案について、リーダーは上長とその対応を討議し、改善の採否を決定する。ここで採決された改善事案については、費用対効果を問われる内容が多いことから、改善による期待効果が求められ、実施にあたっては遂行の詳細計画が必須となる。ここからが、「目標を達成させる改善」に移行することになるのであるが、改善の進め方のトレーニングといえるこれらのプロセスを経ずに、「成果を求める改善」を若年リーダーにいきなり要求する企業は少なくない。

数値成果を求めない改善活動から得られるもの

改善効果を狙った色々な改善提案制度を多くの企業が採用しているが、そこからは大きな改善成果は期待しがたく、「モチベーションアップのため」だったり「改善させるため」の取り組みであるのならば、「改善を通じて人を育てる」を念頭に置いてそのプロセスにこだわったほうが、「会社の将来を約束する、はるかに大きな成果」が得られると確信して支援にあたらせていただいている。
今回、紹介した「気づき提案」は、そのプロセスに小集団マネジメントを形成させ、リーダーシップやメンバーシップを発揮できる要素を盛り込んでおり、自分達の力で改善を完遂さて、そこから成功体験が得られるようにしてある。そこから形成される「やりがい」や「責任感」といったものが、数値成果を求める改善への第一歩になるのではないかと思う。
尚、特集1で紹介した三井化学東セロ様のCRIP活動は、「気づき提案」から改善活動を開始して、成果創出に向けた改善活動に移行して間もないが、既に経営成果に繋がる効果が出てきており、今後の展開が非常に楽しみな取り組みとなっている。このように提案から改善に至るまでのプロセスにそれぞれ目標を持たせることで、「気づき」という感性が育まれ、改善、改革に向かう風土が形成される。

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