株式会社 叶 匠寿庵様

ものづくりはひとづくり ありのままプロジェクト

 本ページでは、株式会社 叶 匠寿庵様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
 滋賀県大津市大石龍門。琵琶湖から唯一流れる出る瀬田川のほとり、どこか懐かしい日本の原風景が広がる寿長生の郷がある。
 それは叶 匠寿庵が農工ひとつの和菓子づくりの理想を追求する郷。寿長生とは井戸のつるべを引き上げる縄の意味、ここを訪れた方々に活力を汲み上げていただきたいという願いから名づけられた。
 昔から日本人の生活は里山と共にあった。四季折々の自然と一体化した暮らし、それが安らぎと感謝の心を育んできた。雑木林や小川など、山林の地形をそのままに活かした六万三千坪の丘陵地。和菓子の原料となる約千本の梅が植えられた広大な敷地には、数百種の野の花も四季折々に咲き誇り、この郷を訪れた人々の心に安らぎと歓びを与えてくれる。
 素材にこだわり和菓子づくりを通じて日本の心を伝える叶 匠寿庵。自然界の色や形を取り入れたその和菓子から受ける印象は味わいのやさしさである。里山での営みの中で、自らの感性を磨き、郷から発信できる無限の可能性を考える。新しく開設されたパン工房とカフェなど、和菓子づくりの枠を越えた新しい価値を創造している。
 「ひと手間を惜しまない」その思いが品質に表れる。ものづくりはまずひとづくりからという叶 匠寿庵の改善活動についてお話を伺った。(※ASAP 2018年 No.1より抜粋)

叶 匠寿庵左から、
生産部 物流課 課長   中山 佳宏 氏
生産部 製造一課     辻子 竜也 氏
生産部 品質管理課 課長 小川かずみ 氏

叶 匠寿庵執行役員
生産部 工場長
松岡  真 氏

叶 匠寿庵について

まず貴社の沿革についてお伺いできればと思います。

松岡: 当社の成り立ちは、1958年9月に創業者である芝田清次が滋賀県大津市で和菓子づくりを始めたことからになります。もともとは大津市に勤務する職員であり、和菓子づくりは素人だったのですが、自らの茶道修練の経験をもとに和菓子づくりに専念することを決意し起業に至り、滋賀県大津市の長等に店を構えました。
 1968年5月に株式会社 叶 匠寿庵として改組し、二代目の芝田清邦が「農工ひとつの菓子づくり」を目指すため、1985年に本社工場をここ寿長生の郷に移しました。その後、2012年に三代目となる芝田冬樹が社長に就任。「チャレンジ(挑戦)し続ける事」を信念とし、日本文化を継承していく事を和菓子づくりという分野から挑戦し続け、現在に至っております。当社も今年で60年目を迎えるわけですが、これも皆さまのご支援のたまものだと感謝しております。

叶 匠寿庵

ものづくりの心を伝える

創業者の芝田清次さんとの思い出や松岡さん入社当時の状況はいかがでしたか。

松岡:私が入社したのは約30年前です。創業者は相談役でした。ご高齢でしたが、まだまだお元気でした。私は寮に住んでいましたが頻繁に見に来られて、玄関に靴をちゃんと揃えているかどうかなどを確認されるわけです。当社は年末になるとすごく忙しくなります。それで夜の11時ごろになると相談役がやかんとパンをもって作業場に来られます。「みんな集まれ~」と呼ばれて、やかんに入ったスープとパンを食べさせてくれるわけです。厳しさの中にも優しさを感じる、いわゆるカリスマ性を持った方で、毎日昼夜問わず実地で教育いただいた覚えがあります。
 その頃はどこにでもある町内の和菓子屋さんという感じで、働いている人も社員というよりは丁稚どんみたいな感じでした(笑)。当時は工場のすぐ横に寮があり、隣の部屋の先輩が、早朝に壁をどんどんと叩くのです。釜に火をつけてこい、という合図です。直ぐに釜に水を入れ火をつけてから、もう一度寮に帰って仕事の支度をすると言った一日の始まり方でした。

現在の工場での基礎教育はどのように行われていますか。

松岡:寿長生の郷の中に工場がある意義は大きいと感じます。自然の中に身を置くことで、あらゆることへの感謝の気持ちが育まれるのではないかと思います。また、文化的な素養についても、契約社員(パート社員)の方も対象にして、茶道や花道などの教室を毎週開講しております。しかしながら、まだまだ力を入れねばと感じております。

叶 匠寿庵社内での花道教室

茶道や花道などは、和菓子をつくるにあたって大きな要素ですが、人も育てていく事が出来るのですね。

松岡:そのように感じます。私が入社したころは、お茶会だといえば相談役について、みんなで裏千家のお茶会などに参加していました。お茶室の裏でお菓子を盛り付けていた記憶があります。そのときの貴重な経験も含めて、今の工場運営や人材育成に活かしていきたいと思っています。

コンサルティング導入の経緯

コンサルティングをご導入された経緯についてお伺いいたします。

松岡:テクノ経営さんから、弊社常務宛にご連絡いただきお話を伺ったのがきっかけだったと聞いております。これまで生産効率化や在庫管理などの改善に取り組み、様々な方からのご指導ご鞭撻のお蔭で成果を出すことができました。しかし、今まで学んできたことを進化させていく時期に来たと感じ、現在の活動に至ります。

自然体で進める「ありのままプロジェクト」

活動の概要についてお聞かせねがいます。

松岡:当社の活動は「ありのままプロジェクト」といいます。できもしない数字をいい格好をして並べるようなことはやめておこうということです。現実をつつみ隠さず、みんなさらけ出すことで向上していこうという意味を含んでいます。

小川:本プロジェクト活動の狙いは、品質向上、次に生産性向上です。今まで様々な改善手法を学んできたので、それを礎にまず品質を第一に考えたものづくりを目指し、そして生産性や利益につながる取り組みを構築したいと考えて進めています。よくありがちなのが、ごく限られた人たちだけの活動になってしまうこと。そうではなく、全員参加で改善を進めていこうというのが最初に定めたモットーです。
 活動の取り組みとしては、まず「気づきメモ活動」から入り、品質向上(クレームゼロ)、生産性向上や出荷物流改善、そして現在は原価管理のレベルアップにも取り組んでいます。

叶 匠寿庵定期的に行われる茶道の稽古

「ありのままプロジェクト」の活動内容

全員参加のためにどのようなことをされましたか。

小川:最初は、改善活動に対する抵抗感を無くすために、日常のなかで感じた事柄を何でもいいから書き出すことにしました。継続的に実施して馴染ませていくことで、普段の仕事の中で「○○製品の箱が○○な状態になっている」など、自然と問題が発見でき、他の方に相談するような場面も少しずつ見受けられるようになってきました。
 ただし問題発見を強制すれば本末転倒になりかねないので、事務局としての後押し方法も工夫し続けなればならないと感じています。たとえば、事務局や課長職による定期・不定期での現場巡回を行い、その場その場で現場の事実から色んなアドバイスを行うようにもしています。しかしながら継続するのは大変です。何とか力を合わせて推進力が落ちないように努めているところです。

出荷物流改善についてはいかがですか。

中山:和菓子は季節(暦)で商品が変わります。また、賞味(消費)期限が短い為お客様へ届くまでのリードタイムが短いのも特徴です。
 さらに、日本文化と密接な関係にあるものなので、特に進物シーズンは平月の3~4倍になってきます。その大きな変化のなかで、どうしても工場内はもとより、出荷作業場においても置き場や動線に問題が出てきます。その中で、より良い流し方をいい意味で試行錯誤しながら進めています。
 たとえば一例として出荷ピッキング作業が挙げられます。日々の各店舗からの注文に応じて、商品を揃えて詰め合わせする作業です。商品の種類に加えて、店舗用進物箱や包装紙なども含めると数十種、いや、百種類ぐらいに及ぶ日もあります。
 以前は、店舗毎に担当者を決めて専用カートで作業していました。スーパーマーケットで買い物をするようなイメージです。種類や量が少ないときは効率がいいのですが、多くなると、あっちいったりこっちいったりで効率が悪くなります。そこで、量が多い日は、ローラーコンベアを活用して商品群別に作業する方法に変更しました。作業効率は2割~3割良くなりました。その後、量が少ない日も試してみようという声が上がり、実際にやってみたところ、量が少ない日でも作業効率が落ちなかったのです。今ではすっかり定着しましたが、更にラインバランス追求にチャレンジしているところです。

成果はいかがですか。またこだわっている点はどのようなことですか。

小川:まず品質についてはクレームゼロを目指しています。日常のコツコツとした小さな改善の積み重ねと意識を高めることでゼロに近づいてきました。次に生産性ですが、これは一人当たりの出来高を見ています。どうしても製造の繁閑差がそのまま生産性に出る傾向がありますが、比較的製造量が安定した期間においても生産性をしっかり上げていくことを課題にして取り組んでいます。
 現在は製品別の原価も見えるようになりました。どの製品のどの費用が改善ポイントか?を数字に基づいて見出し、この数値と実際の作業における改善箇所とがしっかり繋がるように、管理レベルを上げて行きたいと考えています。もちろん品質第一で。

松岡:業務効率を追求することに執着すると、つい忘れがちになることがあります。それは、「お客様にとっては、和菓子がおいしく、綺麗に見えることが最も大切である」ということです。
 たとえば製品の見た目やあるいは箱や包装を簡略化すれば生産性は上がります。しかし機械ではできないひと手間が、お客様が当社に求める大きな付加価値の1つではないかと思うのです。その心を最も重視し、数値的な成果を出すことだけにならないよう、この点は今後もこだわっていきたいところです。

経営トップ層の方へのアピールはどのようにされていますか。

小川:自分たちの活動を発表する場として、年2回の成果発表会と3ヵ月単位の中間発表会を開催しています。形式にはとらわれず、会議室やホールで行う場合や、あるいは一緒に現場に入って改善状況を見ていただく場合もあります。ここでも「ありのまま」の実態を伝えたいという思いがあります。

叶 匠寿庵

叶 匠寿庵代表銘菓あも

全員参加で、認め合い、話し合う

事務局の立場で心がけていることは何ですか。

辻子:私はまだ若手ということもあり、特に契約社員さんに対していかに親身になって説明できるかが課題と捉えています。プロジェクト事務局を担当して、みんなをどう引っ張っていくか、どう動かしていくかという信念が自分の中にないと周りの方々が付いてきてくれないと実感しています。活動を盛り上げるために、やらされているのではなく自分たちの活動として楽しくやっていくことを重視したいと考えています。
 まだ活動の重要性を十分に伝え切れていない状況があります。活動を全員でやっていこうとするとき、流れに乗らない人をどうしていけばよいのか。強制力を持って進める活動は自分たちが目指しているものとは少し違うと思っています。

中山:やはり人というのは今やっていることを頭ごなしにダメといわれるのは嫌じゃないですか。いまのプロジェクトはそうではなく、お互いを認め合いながらも悪いところは正すようなスタイルを念頭においています。

みなさんからの発信を大切にされているのですね。

松岡:そうですね。あるお題目に対して、上長や外部の方から言われてから動くだけでは自由な発想がありません。どうしても手段ありきになってしまいます。従業員全ての方の思いをくみ上げながら管理者・責任者がしっかり判別して進めることが重要と思います。 当社ではパートさんを契約社員と呼んでいます。常に100名くらいで、繁忙期にはアルバイトも入れて200名ほどでまわしています。当然ながら今回のプロジェクトは契約社員も一緒になって推進してきました。売上とともに全体的なお菓子のレベルも上がってきていると感じています。

叶 匠寿庵

今後の展望について

これからの改善活動について

小川:もっと変化・成果を出して、その上で、プロジェクト体制からたとえば改善推進室のような会社の組織にまで発展させて運営を拡大できればと思います。そのためにやることは、やはり日々の活動をしっかり積み重ねていくことです。

中山:コンサルタントの支援が無くとも我々が率先して改善できる土壌にすることが理想です。しかし、それが今すぐにできるかといえばまだ不安もあります。現場から自主的な取り組みが沸いてくる、そういう風土づくりを進めたいと思います。

辻子:私は将来、自分がこの会社の中で、全社レベルの改善を引っ張れるような存在になれるよう頑張りたいです。

将来展望について、工場長の思いをお聞かせ願います。

松岡:昨今、海外からのお客様も多くお越しになっています。そこで今年から「インバウンド推進課」という部署を作りました。積極的に諸外国からのお客様への対応力を高めようとの考えからです。私としては、さらに海外展開もやっていきたい思いもありますし、新工場も建てたいと思っています。
 これは営業の女性社員の話ですが、英語の勉強がしたいので会社を辞めてイギリスに留学したいと言ってこられました。それなら辞めなくともそういう制度をつくろうということで社内に留学制度をつくりました。彼女はこの制度で留学し半年後に帰国しました。現在、インバウンド推進課の課長となり、外国人向けのお菓子教室などの企画・運営に尽力してくれています。
 この事例のように、当社には今の枠組みや規制にとらわれることなく、好きなこと、やりたいことを実現できる可能性が大いにあります。私は嫌いなことよりも、好きなことをしてこそ人生は楽しいと思います。今後も更なる発展に向けて、前向きに様々なことに挑戦し、事業を拡大していきたいと考えます。

本日はありがとうございました。
担当コンサルタント