部門力を結集 真価を発揮する開発・設計リーダーの役割

海外対応で高まる設計業務の重要性

すでに海外生産・調達が普通になって久しいですが、1990年代までは国内での生産・調達が主流でした。当時は開発・設計部門と協力工場やサプライヤとの連携があり、モノづくりの技術レベルが高い水準に維持されていました。
ところが近年、海外拠点で開発・設計を行う企業も大幅に増えてきました。海外で設計する場合の問題は、まず日本に比べてまだまだ技術力が低いことです。また、海外調達でも部品などのスペックが頻繁に変更されたり、品質のバラツキが多いなどの課題を抱えています。
そこで国内と同じレベルで考えているとさまざまな問題が起こります。たとえば、日本から図面を出しても、同じモノがでてこない。開発者の意向を考えながら図面を引くのが日本の設計部門ですが、海外の場合は与えられたスペックだけで設計してしまいます。背景にある課題や意図を理解し、設計に反映させる繊細さは期待できません。それを承知のうえで海外からの情報に当たらなければムダな遠回りをしてしまうことになります。
一般に、製品の性能は95%、コスト・品質は80%が設計で決まると言われます。開発・設計部門の重要性はますます高まっています。開発・設計をはじめ、間接部門の仕事は途中の進捗経過が見えないことが最大の悩みです。しかし、変化する状況に合わせて、その業務レベルを上げていかなければ対応できない時代になっています。
私自身もコンサルタントになる以前は、設計部門の責任者をしていました。今回は、その当時の経験を踏まえながら、技術者である部下のモチベーションアップについてお話ししたいと思います。

若手の技術者に見られる傾向

激変する開発・設計環境のなか、若年層の技術者に共通する弱点は経験年数が少ないことです。ゼロからの設計経験がなく、先輩の設計データを編集して作業する場合が多く、この20年間ほどで個人の技術進歩が停滞気味になっている。また問題解決のスキルが低いが、上の人が教えてくれない、海外進出で国内生産が縮小されている、実際の現場・現場との接点がないなど、設計部門を取り巻く厳しい環境が続いてきました。
そういったなかで新しい設計の仕事も少ないという不都合な現象が起きています。仕事の進捗・課題が見えず、特定の人ばかりに仕事が集中する現実。そこで新規業務で問題が噴出、コストダウンが進まず、時間が足らない状況が生じています。

部門長の役割とは

そうした状況のなか、部門長に課せらせた役割とは何でしょうか。それは設計部門の部下を動機づけ、自ら行動を起こすように仕掛けること。そして目標に向けて知恵を出しながら継続した活動ができる環境をつくることだと思います。
開発・設計部門のセミナーで「部門長は楽しいですか」とお聞きすると、「あまり楽しくない」という意見が多いことに気づきます。では、どういうところが楽しくないのでしょうか。それをまとめてみると「自分のやりたい仕事ができない」「思うように部下をマネジメントできない」「部門長としての仕事の成果がつかめない」といった項目が挙がってきます。また、なかには「むしろ技術者であった方が楽しかった」という方もおられました。
一方、「あなたの部下は楽しそうですか」という質問では、「いつも仕事に追われており余裕がない」「技術者なので非常に扱いにくい」などの声が聞かれました。
これらの質問から上司も部下も仕事に追われている状況が伺えます。しかし、これは技術部門だけではないのですが、仕事に楽しさを見出すことは非常に重要なテーマです。そして、特に技術部門では楽しくなければ仕事の効果がでないからです。部下に仕事の楽しさを感じさせ、やる気を出させることが部門長の役割であると思います。

「知的クラフトマン」にはモチベーションが重要

私は開発・設計部門のメンバーを「知的クラフトマン」と呼んでいます。一般的に「自分の仕事に強いプライドを持っている」「自己完結して仕事への他者の介入を許さない」といった特質を持ち、自分の技術や設計スキルなどが認知されることに喜びを感じる傾向が強い。「さすが君の創ったものはちがうよね」といった評価が強いモチベーションを与えます。
部門長の役割は、部下の業務を後押しすることです。創造的なモノづくりには、異種結合が重要です。他部門や他社との交流を通じて新しい着想が生まれてきます。こうした場を設定することが求められています。
その工夫は、メンバーにとっての目的を明確にすることです。あるいは成功イメージを持ってもらう。「業界でこれをやった人はまだいない」「これは世界レベルの仕事である」などの一言が、やる気を抱かせ、一歩を踏み出す原動力となります。

内発的動機づけの重要性

古典的な話ですが、動機づけには「外発的」と「内発的」があります。「外発的動機づけ」とは、たとえば昇給のため仕事を頑張るとか、義務、賞罰、強制などに関連しています。特に自己の価値観や人生目標と一致している場合は、自律性の高い動機づけとして働きます。
これに対して「内発的動機づけ」は他者からの評価に左右されないモチベーションです。それは好奇心や関心により自分で満足する性質を持っています。たとえば日本の工芸品などに見られる作品の裏まで手を抜かない匠の技などが該当します。
動機づけには、周囲の期待感や価値観も大きく影響しますが、「知的クラフトマン」にとって、自らの課題に挑戦する動機づけが重要なことは言うまでもありません。

「脳科学理論」で部下のやる気を引き出す

やる気と関連した脳内物質の代表がノルアドレナリンとドーパミンです。ノルアドレナリンがストレスや緊張をもたらし、ドーパミンはリラックスと関連しています。両者の働きはアクセルとブレーキのように異なっています。
たとえば会議での叱責、賃金が下がる恐怖、緊急に解決を要する事態などでは、ノルアドレナリンが大量に放出されます。これに対して、ドーパミンは充実した仕事をしているとき、ほめられたとき、スポーツでナイスプレーを決めたとき、顧客に喜ばれたとき、好物を食べているときなどに出ます。ノルアドレナリンは、ここぞというときに火事場の馬鹿力的な効果を発揮しますが、短期的で長続きしないのが欠点です。一方、ドーパミンは快楽物質とも呼ばれるように、持続・強化されるという特徴を持っています。
これらモチベーションに関与する脳内物質をマネジメントにどう活かすか。楽しい気持ちで仕事をしてもらうか、へとへとに忙しいなかでやる気を引き出すか。状況に応じて使い分けることが必要です。

マネジメントを変える力

昔は働くことでいかにして食べるかが重視されました。しかし成熟社会を迎えて、若い人の価値観も大きく変わっています。彼らにモチベーションを持ってやってもらうには、部下の言葉に耳を傾け、考え方の論理を理解することが大切です。そのうえで動機づけをはからなければ彼らの自立性を引き出すことはできません。
ある輪投げを使った実験によれば、「目標の魅力×達成の可能性」がモチベーションと深く関係していることがわかります。目標との距離が近すぎると簡単すぎてやる気がでないのですが、遠すぎると困難すぎるとあきらめる。学生を対象に行った実験では、中程度の難易度が挑戦へのモチベーションを生む結果が出ました。つまり能力より少し高い目標設定が効果的だということです。

コンサルタントコラム

ドラッカーの名言に「何かを行うことは強みによってである」という言葉があります。開発・設計組織のパフォーマンスを高める鍵はモチベーションアップによる意識の高揚です。そのためには「知的クラフトマン」としての部下の特質を理解し、適切なアドバイスを行うことが必要です。
他部門との連携や全体最適の考え方から、プロジェクトの成果に責任を持つ意志や技術の本質を見抜く力が生まれてきます。三現主義の視点からモノづくりを捉えたとき、設計業務の細心さと大胆さが重要だとわかります。経営とのつながりを理解する視点もそこから生まれてくると思います。

執筆者のプロフィール

この記事を読んだ方は以下の記事も読んでいます。

[コラム] 間接改革「OVM」の進め方(3)

[コラム] ものづくりチームのつくり方

[コラム] 「制度や設備投資に頼らない、本質的な働き方改革」

[コラム] コンサルタントの視点で見た海外工場運営(2)



コンサルタントコラム一覧へ

最近の投稿

アーカイブ