戦略的「開発・設計力」の強化策 ~自社の潜在力を引き出して、強力な技術部門を創る~

ものづくりは開発・設計力で決まる!

ものづくり競争力の源泉は開発・設計技術にあります。製品の機能・デザインはもとより、コスト・品質の大部分は“開発・設計力で決まる!”といっても過言ではありません。
近年、国際的な競争激化を背景として製品開発サイクルの短縮が余儀なくされています。以前は数か月以上の設計開発期間の後、もっとも重要な立ち上げ評価の期間、つまり設計完了から量産までに3か月以上の期間があり、設計の段階でコストや品質を造り込む時間が取れたのですが、しかし、それは日本製造業が絶好調であったバブル期までの話です。中国、韓国、ASEANなどの台頭により、それまでの競争環境は大きく変わりました。新興国が短いサイクルで安価な製品を続々と市場投入するようになると、日本も世界のスピードに引っ張られてしまいます。デジタル家電業界の衰退も製品戦略の失敗に起因すると言われます。

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ただ、海外企業の場合、設計品質の悪さが如実に表れるケースが多く、日本製品に対する信頼性は依然として海外で高い状況です。例えば、事故を続ける新幹線などは日本ならではの誇れる事例といえるでしょう。日本製造業がこれからの国際競争に打ち勝つには技術力と品質で勝負するしかありません。そして、そのためには自社の開発設計力を充分に発揮できる体制づくりが必要です。

部門連携が技術力発揮の秘訣

コスト・品質の造り込みと申し上げましたが、その実現には開発設計と生産部門の連携が極めて重要です。特に量産品の場合、ある時期の開発設計と生産技術や製造部門はお互いに協力して並走することが必要です。ところが部門間のコミュニケーションが悪く、例えば、製造部門には現場を見ていない設計なんて信用できないという先入観があり、また設計部門はできるだけ時間を短く作れるように設計しても現場が付いてこないという思い込みを持っているなど、コミュニケーション不足によりお互いに不信感を抱いているケースがよく見られます。そして、その結果、開発期間の短縮化もあって検証不十分な状態で市場投入される製品が増えているようです。
また設計部門も試作ができたら完了だと考えることがよくあります。しかし、1日に1000個も造る製品の完成度がわずか10個程度の試作でわかるはずがありません。試作は設計、製造、品質のそれぞれの部門が役割を分担しながら連携して量産時、市場での想定で製造仕様、品質を造りこむために、本来1回では無理で2~3回やることが必要だといわれています。これを限られた日程の中でやり抜くコツと工夫が今求められています。
また、金型作成には最低40~45日程度は必要で、これは多くの業界で共通しています。慌てて造っても使い物にならず、そこから修正に2~3週間かかってしまうからです。工場試作の段階で金型の設計検証により品質や性能が出ていることを確認し、さらに治具の製作や修正をかけて量産に入るのが通常の流れです。このように設計と製造部門が密接に連携してこそ効率的なものづくりができるのです。
ところがこんな基本的な製品開発の流れができてない現場が多々見られます。

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例えば、試作も少しはするが設計は全然絡んでいないケースがありますが、あとから品質チェックしても上手く行かないものです。そして、そのあとも良くならないまま生産を立ち上げていくため、設備の問題も絡んで仕損じなどの不良がでてくる。それが非常に大きなロスになってきます。コストが高い、品質クレームの多発、性能がでないなど、問題の背景には技術の意図が伝わらず、設計の知恵が活かされない状況があるではないでしょうか。

技術者のやる気を引き出す!

ある企業で設計パフォーマンスを大幅に増強させる活動を支援したことがあります。技術部門を対象に、自分たちで自主的に取り組んでもらうことにしました。最初はポートフォリオやSWOT分析で自部門の進むべき方向の検討をしていましたが、やがて自分たちの課題が明確になるとそれぞれ独創的な手法で課題解決に取り組む姿が見られるようになりました。
ここから気付いたことは、目的が明確になれば集中する、頭のなかが整理されると行動は速くなる、という技術者に共通する一般的な特性です。進むべき方向性が明確になってこそ彼らのモチベーションは上がります。組織の進むべき方向性が曖昧では技術者の潜在力を引き出すことはできません。
『知恵―清掃員ルークは、なぜ同じ部屋を二度も掃除したのか』(シュワルツ バリー、シャープ ケネス著 アルファポリス 2011)という本があります。本書の要旨は、知恵は目的が理解できていなければ生まれないということです。この本には数々の事例が紹介されているのですが、表題にもなっている清掃員ルークの事例を紹介しましょう。
病院に勤務するルークの仕事は病室を清掃することです。ある日、植物状態で意識のない若者がいる病室を掃除し終わったところに父親が戻ってきました。父親はまだ部屋の掃除が出来ていないと思って、ルークに早く掃除するように命じます。しかし、ルークはすでに自分の仕事を終えているのですから、再び清掃をする必要はありません。ところがルークは反論ぜず、
だまって部屋をもう一度清掃したのでした。
ルークがとった行動の理由は何でしょうか。それは彼自身が仕事の目的を理解していたことによります。彼は自分の仕事は単に部屋の清掃することではなく、病院にいる人々を気持ちよくすることが使命であると考えていたのです。このように知恵は目的がわかっていなければ出てきません。そして、それを引きだすのがプロジェクトリーダーの役割だといえます。
技術部門責任者の役割は「適切な課題を与えて技術者のパフォーマンスを引き出すこと」です。ただ、あまり細かい指示を出すのではなく大枠のスペックのみを伝えることが必要です。何のためにやるのか、どうすればそれが実現できるのかを考えさせることが大切です。

ワーキンググループによる問題解決

ワーキンググループとは、少人数による問題解決グループです。柔軟なメンバー構成でリーダーを中心に自主的な活動をするのが特徴です。
ワーキンググループはボトムアップによる活動であり、枠にとらわれない自由度が持ち味です。そして創造性が求められる開発設計部門には最適の活動だといえます。
ワーキンググループを推進するポイントは次項表記のとおりです。

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1.他部門のメンバーを巻き込んで編成する

ワーキンググループはメンバー構成がカギになります。普段から顔を合わせるメンバーではなく、組織や部門を越えた異質な人材を集めることが成功の秘訣です。非日常で多様な発想のコラボレーションがアイデアの源泉となるからです。

2.少人数制とする

ワーキンググループは3~5名までが適切です。その理由は6名以上だと遊ぶ人がでてくるからです。一人ひとりのメンバーが発言でき、皆が考える環境をつくることが必要です。

3.具体的な目標を示す

お互いが問題を共有し、現状とあるべき姿のギャップを理解することが大切です。そのためにリーダーは具体的な目標をメンバーに示し、活動の意義を明確化するべきです。ただ最初から厳格な目標を立てるのではなく、途中から数字に変えていく位の柔軟度が必要です。スペックをあまり細かく決めすぎないことが大切です。

4.目に見えるイメージを示す

ゴールがイメージできるとグループのモチベーションも上がります。例えば、デザインや機能性をイメージするためには、模型製作やシミュレーションによるデモが役立ちます。例えば、デザイナー、意匠、ソフトウェア設計者、取扱い説明書の設計者など幅広いメンバーのイメージ共有には目に見える形が必要です。

コスト力を認識させるオープン・ブック・マネジメント

オープン・ブック・マネジメントとは、社内の経営指標を従業員に開示することで従業員の自律的な行動を促す手法です。米国で評価されている経営手法ですが、財務諸表等の会計数字をオープンにすることで情報を共有化し、従業員が自社の経営状況の改善に参画できると同時にインセンティブも与えようという考え方です。
「うちの社員には危機感がなくて困る」と経営者の方からよくお聴きしますが、自社の経営数字が見えなければ従業員もどう行動すべきか判断できません。「このままでいくと会社の収支は悪化する」「この製品は赤字で撤退の危機にある」そうした生々しい現状を提示し、従業員に当事者意識を抱かせるのがオープン・ブック・マネジメントのねらいです。
ここで詳細をご説明する余裕はありませんが、開発設計部門であれば、設計に品質や原価を造り込ませる。設計と製造部門が連携を取ってコスト対策を進めるなどに活用できます。また決定権を持った事業部長などが出席する会議を月1回にやると非常に効果的です。
ワーキンググループもオープン・ブック・マネジメントも部門の壁を越えた全員参加で進める改善活動です。より詳しい内容については日刊工業新聞社主催の技術セミナーにご参加いただければ幸いです。

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